しかし秘密を守り続けるのは大変だろう。特許を取っておけば、たとえライバル会社が製法を盗用して同様の飲料を作ったとしても、販売差し止めを求める訴訟を起こすなどの対策を講じることができるのに。

 新井氏は、やみくもに特許出願をすることが必ずしも得策ではないことを指摘している。かえって、日本発のアイデアや技術の海外流出を招いているというのだ。

 独自に開発した技術はいち早く特許出願して権利を守るべきだとする考えは大いなる誤解だとまで語っている。

●特許申請の内容は1年半後にネットで世界に広まる

 実は特許は、出願から1年半が経過すると、すべての出願内容が特許庁のウェブサイト上にある『公開特許公報』に掲載される決まりになっている。その際、特許として認められたものだけでなく、認められなかったものまで公開されてしまう。

 これは、過去のアイデアを公開することで、後の出願者が同じアイデアを出願する無駄を防ぐための決まりだ。より良いアイデアによる出願を促し、知財のレベル向上を図る狙いもある。ほとんどの国で同様のことが行われている。

 しかし、日本での特許出願は、権利取得までにかかる期間が、早くて1年半から2年、遅いと3年から5年と言われている。つまり、場合によっては特許として権利が確定する前に、そのアイデアがインターネットで世界中に公開されてしまうということだ。

 日本の年間特許出願件数は約35万件。それほど多くのアイデアが、1年半たっただけで次々と世界中に公開されてしまう。しかも、日本国内で出願・取得した特許の効力は国内のみ。すなわち、各国でいちいち特許を取らない限り、海外では真似し放題ということになる。

 実際、中国を代表する家電メーカーであるハイアールの知財担当者は、日米欧で公開されている特許出願情報を検索して製品化に役立てていると公言している。

 日本での特許出願のうち、外国にも出願されるのは3割程度だという。残りの7割の出願情報の中には、ハイアールのような他国の企業が独自には思いつかなかったアイデアもたくさんあるに違いない。仮に、日本企業と中国企業で同じアイデアを用いて製品を作った場合、コスト競争力で劣る日本企業に勝ち目はあるだろうか。

 このようなリスクをきちんと理解した上で特許申請をしている企業がどれだけあるのだろうか。

 新井氏は、それでもリスクをとって特許出願をするべきかを見きわめるには、3つのポイントがあるとしている。「そのアイデアが実際に自分のビジネスに役立つ(使える)か」「製品を見ただけでどういうアイデアが使われているかを類推できるか」「アイデアを盗まれたとわかった時、裁判で闘う覚悟と勇気と費用があるか」というものだ。

 確かに、使わないアイデアを費用とリスクをかけて出願することはない。また、見ただけでは類推できないようなアイデアは、真似されたことを立証するのも難しい。

●オープン・クローズ戦略、実用新案など特許に頼らない方法も

 特許取得に頼らずに知財を活用する戦略の一つに、「オープン・クローズ戦略」がある。この戦略では、もっとも魅力的に見える部分だけを最小限オープンにする。一方で、それを活用するのに必要な技術や方式などの情報は公開せずクローズにする。

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