政府は6月に閣議決定した経済財政運営の指針(骨太方針)で、財政健全化の指標となる国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化の時期を「25年度」から「25~26年度」に後退させた。衆院選を念頭に昨年、巨額の補正予算を編成したことが要因だ。今回の参院選の結果次第では、プライマリーバランスの黒字化の時期はさらに不透明感を増すことになりそうだ。

 野さんは税収が増えた分、それを国民に還元しないといけないという議論に、「百歩譲って賛同したとしても」と断ったうえで、こう続けた。

「プライマリーバランスの黒字化の部分をすべて還元することになれば、借金しながら減税するのと同じこと。論理矛盾です」

 国際情勢が不透明ななか、日本にはトランプ政権からの防衛費の増大圧力に加え、大規模な震災リスクもある。

「財政再建は何のために必要かというと、いざという時に機動的な財政運営を図るためです。アリとキリギリスの逸話ではないですが、夏は収穫物をためておき、冬はそれを食べてしのぐ。ライフプランでも若くて稼げるうちにしっかり貯蓄し、子どもの教育費やマイホームの取得費に充て、さらに働けなくなる老後のために蓄えるのと同じです。国の財政でも余力は不可欠なのです」(同)

 とはいえ、いまの物価高への対応が求められているのも事実。熊野さんが提案するのが、「おこめ券」の配布だ。

「コメ価格の高止まりが続き、コメ離れも懸念されています。何年も前に収穫したコメを配って価格が下がるのは当たり前で、何の解決にもつながっていません。それよりも、例えば5000円分のおこめ券を配って、古米ではないおコメも多くの人が食べられるようにするほうが、中長期的なコメ離れを抑制できるうえ、期限内にほぼ100%使われるため経済効果も確実に見込めます。『おこめ券』は自治体単独の配布も実施されており、地方でもノウハウの蓄積があるはずです」

 年齢別の食料品支出の消費税負担額は、最も多いのが40代で年間6.2万円。次いで60代の6.1万円、50代の5.8万円、70代以上の5.5万円と続く。消費税の減税は40代以上に恩恵が大きいのも特徴だ。仮に参院選後、野党が政権を握って消費税の減税が実行されればどうなるのか。熊野さんが懸念するのは円安の進行だ。

「東京都議選が終わった後も円安が進みました。物価高対策として消費減税を掲げても、それによって円安が進めば元も子もなくなります。喉が渇いたからといって海水を飲むようなもの。本能でやりたいと思っても理性で抑えないといけない局面です」

 今回の参院選では、「財政保守派」と見られていた立憲民主党の野田佳彦代表も自民党石破茂首相も、「減税」や「現金給付」の軍門に下った、と熊野さんは残念がる。

「健全な財政保守派の政治リーダーはこの国にはもう存在しません。財政再建を唱えるとSNSで批判を浴びるばかり。これから日本で顕在化するのは政策リスクでしょう」

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