「やりますよー」なんてまた引き受けちゃう。
やってみて「えらい仕事だなー」と思いつつも、「これどこかでネタになるな……」なんてほくそ笑んでたりするのも噺家で、けっこうしぶとい。
最近やってないな、屋外の仕事で一席。
それぞれほとんどいい思い出はないのだが、一番記憶に残ってる屋外落語はもう16年前。
山梨・白州のとあるイベント。屋外のステージで「真景累ケ淵」をやった。真の闇の中、3台のスポットライトに照らされての怪談噺。そういうオファーだったのだから仕方ない。しかもネタおろし(初演)。この日のために覚えたのだ。
「あれ、泯さんだよ」
お客さんは芝生の上に座ったり、寝そべったり。わりあい自由なかんじ。話し始めると酔っぱらった自由すぎるおじさんがヤジを飛ばしてきた。
「¥°#♪€$☆#8*^〜〜〜!」
なにを言ってるのかわからないが、ごきげんなのは伝わってくる。
「€$+5÷=%#々*〜〜〜〜!」
無視して続ける。
「☆¥°#3+×<>2€$〒〜〜〜〜〜!」
無視。
「$€5÷<°☆|=÷¥¥2%#〜〜〜〜〜〜!」
そのとき。
「若者が喋ってるんだ、黙って聴けっ!!!」
おじさんを一喝するおじさんの声が、夜空に響く。ゆるゆるだった空気が一瞬張りつめたが、過度な緊張感が続くことはなく、そのあとはお客さんが噺にじっと聴き入ってくれた。
すごい。おじさんがおじさんを叱ったら、空気が変わった。
そのあとは屋外にもかかわらず案外とやり易く、ネタおろしにしては上手くいったのではないだろうか。
終演後、「酔っぱらいのおじさんを一喝した声のおじさん、すごかったね」と言うと「あれ、泯さんだよ」とスタッフ。