
米国市民であっても
そんな白人たちデモの参加者たちの中にあって、メキシコとアメリカのふたつの国旗を融合したような斬新なデザインの旗を持って行進していたのが、イザベラ・メンドーサさん(35歳)だ。
彼女の父親は12歳の時に、メキシコからアメリカにたったひとりでやってきたという。
「漁師をしていた祖父が亡くなると、貧乏で食べられなくなり『アメリカにいる年上の兄弟たちを頼りなさい』と祖母に言われて、幼い父はひとりで国境を越えてきたそう」とメンドーサさんは言う。
学校に通いながら仕事をかけもちして働き、不法移民としてサバイバルし、レーガン大統領時代の恩赦によってやっと米国市民権を得た父。
娘であるメンドーサさん自身は米国生まれだが、父親の過酷だった少年時代を思うと、デモに参加しないではいられないと語る。
「さっき『その旗をデモで振ったら、逮捕するぞ』と馬に乗った警官に注意されたけど、この旗の何がいけないのかわからない。メキシコ国旗のデザインだから?合衆国の星条旗でなければデモで振ってはいけないの?言論の自由は?」とメンドーサさんはつぶやいた。
白い肌でなければ、米国市民であってもデモで警官から差別を受ける――。そんな現実に直面した彼女は「恐怖にコントロールされて口をつぐむわけにはいかない。移民の娘として、これからも声を上げ続けていかなくちゃ」と言った。
(在米ジャーナリスト・長野美穂)
※AERA 2025年6月30日号に加筆
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