
かつて、駅前の一等地や商店街の一角に必ず存在していた本屋さん。近年、書店の数の減少が叫ばれるようになりましたが、こうした地元資本の「町の本屋」の商売はどのように成立し、変わり、どのような背景から競争に敗れ、消えてきたのでしょうか。戦後の書店が歩んだ闘争の歴史と、書店を追い詰める諸問題について詳しく記された書籍が『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』です。
「つぶれる」とは穏やかな言葉ではありませんが、著者の飯田一史氏は「書店が閉店、廃業を選ばざるを得なかった重みを想像してもらいたい」(同書より)との考えから、「消える」「なくなる」ではなく、あえて「つぶれる」という言葉を選んだといいます。「町の本屋」の減少については「ネット書店の台頭が原因だ」と考える人もいるかもしれませんが、問題はそれだけではないようです。
中小書店は「客単価(顧客ひとりあたりの売上)の安さ、利益率の低さ、返品率の高さがもたらす返送運賃の負担、ベストセラーの入荷しづらさ、注文品の入荷の遅さ、取次が決めた本を書店に送りつける配本システムによって似たような品揃えの書店(いわゆる「金太郎飴書店」)になりやすい......といった問題に直面してきた」(同書より)のであり、これは東販(現トーハン)や日販などの主要取次が生まれた1949年頃からずっと言われ続けてきた課題だといいます。
同書では、第一章と第二章で書店業の基本構造を知るうえで大切なことが書かれたうえで、第三章から戦後書店経営史の本編がスタートします。
戦後、日書連(日本書店商業組合連合会)を中心とする書店団体は、運賃・荷造費の書店負担撤廃やマージンアップ、本の定価の値上げといった条件交渉を取次や出版社に訴えてきました。しかし1970年代末から1980年代初頭にかけて、公取(公正取引委員会)が日書店の運動は独占禁止法で違法にあたる恐れがあると示したことで、業界団体同士の交渉が難しくなり、取引条件の改善はますます進まなくなったそうです。
その後、郊外型複合書店やモール内大型書店、駅の売店や鉄道会社系の書店、コンビニが台頭したこと、さらに図書館での新刊書籍の貸出などもあり、「町の本屋」の苦境は続きます。2000年には日本にAmazonが上陸しますが、そうしたインターネット書店がもたらしたものなどについても同書では詳しく書かれています。
同書を一読すると、本屋という商売に安泰の時代などなかったことがわかるのではないでしょうか。であれば、「今もなお、何も変わっていない。ある面ではそう言える」(同書より)という著者の言葉にもうなずけるものがあります。昔ながらのスタイルの本屋は減っていますが、近年話題となった、本屋の棚を有料で貸す「シェア型書店」や文喫などの「ラウンジ/シェアオフィス型」、さらには「書店と図書館の連携」などからは、書店の新たな可能性や希望が感じられるかもしれません。
戦後の書店史について膨大なデータとともに紐解いた同書は、あのころ「町の本屋」に通い詰めた世代はもちろん、「町の本屋」がどのようなものかわからない若い世代の皆さんにも読んでみていただきたい一冊です。
[文・鷺ノ宮やよい]