
楽しくおでかけに行きたい
難病の子を持つ親たちの会とつながり、お互いの経験や思いを話してみると、なぜ子どもを車いすに乗せているのかと怒られたなど、もっとつらい経験をした人たちが少なくなかった。
2年ほど前。その仲間たちと話していて、思い付きのように持ち上がったのが、子ども用の車いすのマークだった。
「作っちゃおうか」
みんなが欲しいと願ったのが、親しみやすい「かわいい」デザインのマークだ。
「かわいいマークをつけて、テンションを上げて楽しくおでかけに行きたいよね」
少しでも暮らしやすい社会を願う、親たちの本音だった。
ニーズの大きさを実感
小林さんは自分で資金を投じ、マークを作成した。車のフロントガラスに貼ったり、車いすに取り付けられるようにキーホルダータイプのマークも作った。
メルカリなどで販売してみると、予想外に売れた。
目に留まりやすいように「もっと大きいものを作ってほしい」との要望や、大人が使えるように「子ども」の文字を外したマークを作ってとの声も寄せられた。同じマークを利用している親同士がたまたま出会って、新たなつながりができたりもしたそうだ。求めていた人が、それだけ多かったということだろう。

説明が要らなくなった
マークを使うようになった昌代さん自身も、ささやかな変化を実感した。
優先駐車場に車をとめる際も、フロントガラスのマークに警備員が気付いてくれて、説明が要らなくなった。
「すみません、すみませんと謝りながら話すことが少なくなりました。『事情をわかってくださったんだ』という喜びは、とても大きかったです」(昌代さん)
「SPECIAL NEEDS」マークとは
昌代さんは、車いすマークを広めようと活動を続けつつ、さらに「SPECIAL NEEDS(スペシャルニーズ)」のマークも製作中だ。
「SPECIAL NEEDS」は欧米で普及している言葉で日本ではまだなじみは薄いかもしれないが、何らかの事情を抱えていることを“見える化”し、声をかけやすくする。さらに、何かあればお手伝いしますよ、という意思表示の「サポーター」側のマーク作りも考えている。
例えば、大災害時の避難所などの慣れない空間では、パニックを起こしてしまう障害当事者もいるはず。そんな時に「SPECIAL NEEDS」マークによって、「何か事情があるんだ」と気付いてもらう。「サポーター」マークを付けた人がいれば、当事者側が何かをお願いすることはなくとも、「わかってくれている」という安心感につながる。
「日本人は優しい人が多いと感じています。だからこそ、事情がありそうな人に対して、どう声をかけていいのかわからないと遠慮する方もいらっしゃるはずで、マークがその橋渡しをする役割になればと思っています」
前を向く昌代さんだが、その心には、「一生抱え続けると思う」という後悔がある。
