捜索・救助費用の保険のうち、ヘリコプターだけを対象にするものはおそらくない。ただ、民間ヘリの費用が補償されることを明示しているものは多い。

 最大1000万円の救援者費用保険が自動付帯する共済制度「やまきふ共済会」では、会員制度の説明の冒頭に「遭難時の民間ヘリ等の捜索救助費用」等が補償されることが明記されている。この保険は地上捜索や駆け付けた親族の宿泊交通費などもカバーし、内容に不足があるわけではないが、民間ヘリについて記載する必要はあるのだろうか。運営する山岳寄付基金の井関純二代表理事はこう説明する。

「当会では過去に民間ヘリ出動による支払い実績はなく、ここ数年は民間ヘリでの救助活動自体を把握していませんが、10年ほど前までは(山小屋などへの)物資輸送のタイミングでの搬送と思われる出動事例がありました。現時点でも民間ヘリが出動する可能性がゼロではなく、問い合わせでも多い質問のため表記しています」

 一方、別の山岳保険の説明には、民間ヘリコプターを要請すると数十万円がかかると明記したうえで、その救助費用を補償すると書かれている。この保険の代理店に確認すると、こんな「回答」があった。

「民間ヘリは飛ばないんですか? 支払い実績があるかはお答えできませんが、一般的によく言われている内容を記載しています。うちはケガや賠償責任などを広くカバーする保険なので内容に影響はないと思いますが……」

山岳救助訓練の様子。遭難者役の隊員を県警ヘリ「あかぎ」で引き上げる=2023年4月、群馬県前橋市

保険金が下りないことも

 もちろん、ヘリコプター費用の有無にかかわらず保険は必要だ。ただ、そこには「落とし穴」が潜んでいるかもしれない。

 まず注意すべきが、一般の傷害保険等に付帯する「救援者費用等補償特約」だ。雪山やクライミングなどは一般保険の対象外だが、トレッキング程度なら補償対象になることが多く、捜索・救助費用にも適用される。ただ、この特約の約款にはこんな一文が入るケースが多い。

「急激かつ偶然な外来の事故により被保険者の生死が確認できない場合(以下略)」

 転倒や滑落は補償対象だが、道に迷った、疲れて動けない、持病が悪化した、などによる遭難は「急激かつ偶然な外来の事故」ではないとして保険金が下りないことが多い。遭難原因で最も多いのは道迷いで、2023年の遭難の33.7%を占める。疲労は9.1%、病気は8.6%で、遭難の約半数が対象外となる可能性があるのだ。

 登山向けとして売り出されている保険なら道迷いや疲労による遭難までカバーするものが多いが、それならばどれでも安心……では実はない。

 ある登山保険の約款の一文にはこうある。

「遭難したと警察に認定され、実施された山岳遭難・捜索救助費用の内、公的機関や公的機関から委嘱された民間機関等から請求された費用で(中略)保険金を支払います。」

 ここで問題になるのが、「公的機関から委嘱された民間機関等から請求された費用」という文だ。先述したように、民間機関は家族らの要請で出動することが多い。三笘さんらも警察や消防と連携し、情報共有や捜索範囲のすみ分けをするが、業務を委嘱されているわけではない。三笘さんは言う。

「例えば北アルプスでは夏の間、長野県から委嘱された民間パトロール隊が常駐し、救助を担うこともあります。ただ、こうした例は全国的にはわずかです。私たちが捜索を担った際にもこの一文で保険金が支払われず、ご家族が泣いておられるケースがありました」

「保険に入れば安心」ではない

 この保険会社の担当者は、家族が民間に依頼した場合は保険金が支払われないことを認めたうえで、こう回答する。

「公的機関から民間に委嘱されるケースが多くないことは承知しています。ただ、事例としてはあるし、安く販売するため、保険料と補償のバランスでこうした約款にしています」

 三笘さんはこう指摘する。

「『とにかく保険に入れば安心』ではありません。最低限約款を確認し、補償内容や適用条件を慎重に確認してください。なぜ保険が必要なのかも考えて、最適なものを選んでほしいと願っています」

(AERA編集部・川口穣)

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