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 在宅緩和ケアを行う医師・萬田緑平の診療所はいつもジョークや笑い声に溢れている。患者たちは末期がんで余命宣告をされても自宅に暮らし、家族旅行やゴルフ、お酒を楽しんでいる。なぜそれが可能なのか? 五つの家族の姿から「最期まで自分らしく生き抜く」を考えるドキュメンタリー「ハッピー☆エンド」。オオタヴィン監督に本作の見どころを聞いた。

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 2年前に母が旅行先でピンピンコロリで亡くなったんです。お別れができなかったことに、想像以上にダメージがありました。そんなとき萬田緑平先生の講演を聞き、以前に聞いたときの10倍くらい染みたんです。先生に取材をお願いし、快諾していただきました。

 先生の診療所や在宅緩和医療ケア先に行ってみて、まさかあれだけ明るく患者さんが笑っているとは思いませんでした。萬田先生は本当に愉快な方で「笑いが絶えない」を体現している。ある患者さんはしみじみ「私、がんを告知されてから初めて笑いました」と言っていた。“患者ファースト”、それが先生の最もやりたいことなのだと思います。登場する5人にはご家族がいますが一人暮らしで在宅ケアを受けている方もいます。

 萬田先生は患者さんの痛みをとるために、厚生労働省から認可された鎮痛薬を適切に処方します。患者さんは亡くなる直前まで旅行やゴルフができる。でも一般の人は自宅での治療が困難だという先入観で「病院で標準治療するしかない」と考えてしまう。本作は最新の鎮痛技術を用いた「在宅緩和ケアという選択肢」の提示です。緩和ケア医でも人によって緩和スキルは異なります。萬田先生の長い経験の積み重ねの成果を、ぜひほかの医師にも観てほしいです。

オオタヴィン(企画・プロデューサー・監督・撮影・編集)OOTA VIN /愛知県出身。「まほろばスタジオ」主宰。代表作に「いただきます」(2017年)、「夢みる小学校」(21年)など。全国順次公開中(撮影/岡田晃奈)

 映画には樹木希林さんの講演の様子も登場します。樹木希林さんが出演する広告のコピーは「死ぬときぐらい好きにさせてよ」です。大多数の方は病院治療を唯一の選択のように考えていますが、残された最期の時間を自宅で我がままに生きてもいいんじゃないかと僕も思います。これは生きる時間の長さではなく、生きる質や自分らしさを求める「クオリティー・オブ・ライフ」を選択した人たちの話なのです。

(取材/文・中村千晶)

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