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 「あれはドラマだから」。知人の校閲者たちは、そう言って苦笑いしていた。無理もない。ヒロインは、集中力が求められる校閲の現場で大騒ぎ。編集に口を出し、校閲の仕事を放って外出し、作家と会ってアドバイスを送り、上司にファッション誌編集部への異動を懇願する。まさに「そんなのありえない」のオンパレードだ。

 視聴者も何となく「これはドラマだから」と感じているのだが、今回はその「何となく」に引っかかるものがある。そもそも「ドラマだから」というエクスキューズが機能するのは、それなりに仕事内容が知れ渡っている職業。たとえば、警察署長がふらふら街を歩く「キャリア」(フジテレビ)の刑事、フリーランスの外科医が法外な報酬をもらう「ドクターX」(テレビ朝日)の医者は、視聴者のミスリードが少ない。

 しかし、その存在がほとんど知られていない校閲者は事情が異なる。「基礎の技術や下積みの姿を描かず、新人にいきなり大作家の仕事を振る」という序盤の構成は同職へのリスペクトが乏しく、「校閲って簡単なのね」とみなされかねない。実際、「『校閲者にスポットを当ててあげる』というテレビ局の上から目線を感じた」などの辛らつな視聴者の声も見かけた。

 その一方で、同作の演出には目を見張るものがある。そもそも細かい文字を扱う校閲の世界は映像のドラマに不向きであり、タイトルに「地味にスゴイ!」と掲げたのも、その自覚ゆえではないか。しかし、カラフルでフォントの大きいテロップ、コマ送りのようなカット割り、ファッションスナップなど、静止画を巧みに使うことで文字の地味さをカバーしている。

 その立役者は、バラエティ出身の小田玲奈プロデューサーと、数々のアニメを実写化した佐藤東弥監督だろう。キャラクター造形と短いシークエンスの連続は、いかにもバラエティやアニメ風。「人間ドラマを分断するのでは?」という演出過多の不安もあったが、終盤に向けてほどよくトーンを抑えることでバランスを保ち、温かい気持ちにさせてくれる。

 そういえば、石原さとみ演じる河野悦子は、バラドルやアニメヒロインに見えなくもない。そして先輩校閲者、作家、居酒屋の客が彼女を見る目は優しさに溢れている。その意味で当作は、視聴者も同じような優しい目でヒロインを見守っていくのが正解なのかもしれない。

 バラエティとアニメ。両者の演出を前向きに採り入れた当作が好評なのは、視聴者ニーズの示唆なのだろうか。今後のドラマ制作に影響必至であるのは言うまでもない。

●きむら・たかし ヒロインと同等以上に目を引くのが、先輩校閲者・藤岩りおんを演じる江口のりこ。この人、“推定打率10割”の隠れた安打製造機で、とにかくハズレがない。当作でも「地味にスゴイ!」の隠れヒロインとなっている。