あずま・ちづる/1960年、広島県生まれ。ドラマや報道番組の司会など幅広く活躍。マイノリティーの表現者が活躍する舞台や映画を製作する一般社団法人「Get in touch」代表(写真:本人提供)
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 大学受験で、念願叶って志望校の合格を勝ち取った人がいる一方、落ちてしまった人もいる。不合格にどう向き合えばいいのか。俳優・タレントの東ちづるさんに聞いた。AERA 2025年3月17日号より。

【アンケート結果】「第1志望」は叶わなかったけれど「頑張る力」に変換!

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 広島県の公立高校3年生のとき、「第1志望」だった広島大学の教育学部を受験し、結果は不合格でした。後悔よりも、どこかほっとしたような気持ちだったことを覚えています。

 挫折感はありました。広島から出ることなく、地元のエリートが集う広大に行って教師を目指す。そんな希望を持っていた親の期待を裏切ってしまった。親にかわいそうなことをした。そんなつらさは味わいました。

 ではなぜほっとしたのか。私は心の底で、広島から離れて「芸大か美大に行きたい」と思っていました。でもそれでは将来、生活が不安定だという周囲の大人の意見を私は受け入れてしまい、気持ちに蓋をしていました。

 そもそも広大で学びたいという「熱」が私自身にあったのか。自らの希望か、親の期待に沿うためか、もはやわからなくなっていました。だから不合格にもかかわらずほっとしたのかも。もし合格していたら、そこで喜び、納得しようとする自分はいたかもしれない。でも本当に私の心が喜ぶことだったかというと、たぶんそうではなかった。

 一方で、「もったいないことをしたなあ」という思いもいまはあります。大人になって、戦地などで教育を受けたくても受けられない子どもたちに出会い、その大切さを教わり、真剣に向き合うことになったからです。

 高校3年生の私は、なぜ教師になりたいのかというビジョンもなく、受験の合否がゴールになってしまっていた。本当はそこがスタートだったのに、そんなことさえも考えてなかった。「本気で勉強すればよかったな」とは思うし、反省もしています。

 結局、大阪の私立大学の短期大学部に入学しました。在籍しながら4年制大学を再受験すればいい。最初は親も私も、そう思っていました。でも結果的に私は、そこを卒業しました。

 だからこそよかった、とも思いません。事実は事実として受け止めるだけです。でも大事なのは、「それを自分で選択した」ということ。「もうこの2年間でいい」と、人生において初めて「自分で」決めたんです。

 第1志望に行けず、ネガティブな思いを引きずるケースもあると聞きます。でも最終的な自分の選択には、「これが最適解なんだ」と誇りを持ってほしい。

 いまだに学歴を重視しがちな社会であることは確かでしょう。私は疑問ですが。でも、もはや学歴だけで一生安泰などという時代ではありません。就職も仕事も、すべてはそのときそのときが岐路の選択。「大学受験の結果で人生が決まる」なんて思う必要はまったくないと、私は思います。

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2025年3月17日号

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