閉塞感が漂う中、生きづらさを感じたり、人間関係に悩んだりする子どもが増えている。子どもの居場所を少しでも多くつくることが必要だ(写真:Getty Images)
この記事の写真をすべて見る

 小中高生の自殺者数は過去最多になった。しかも女子が増え続けている。背景には何があるのか。自殺対策に取り組むNPOと、識者に聞いた。AERA 2025年3月10日号より。

【過去最多!】1日1.5人弱の子どもが自ら命を絶っている・・・

*  *  *

 悲しい数字はどこまで増えるのか。

 527人。昨年、自ら命を絶った小中高生の数だ。統計のある1980年以降で過去最多となった。厚生労働省が1月に、暫定値を発表した。1日に1.5人弱の子どもが自ら命を絶っていることになる。

「子どもの自殺だけ増えているのは、社会として取り組むべき緊急事態」

 こう話すのは、自殺防止に取り組むNPO法人「OVA(オーヴァ)」代表の伊藤次郎さん。

 厚労省によれば、昨年1年間の全体の自殺者数(暫定値)は2万268人で、統計を取り始めてから過去2番目の少なさとなった。一方で、小中高生の自殺者数は過去最多となったのだ。

危険因子と保護因子

 子どもの自殺は2022年に初めて500人を超えた。コロナ禍で人と人の繋がりが分断され、学校や家庭の悩みが深刻化したことが一因と見られた。しかし、日常が戻った後も状況は変わらない。しかも、少子化にもかかわらずだ。24年の内訳は、高校生349人(前年比2人増)、中学生163人(同10人増)、小学生15人(同2人増)──と、いずれも前年を上回った。

 背景には何があるのか。

 精神保健福祉士でもある伊藤さんは、「急激に何か特殊な問題が立ち上がっているわけではない」と語る。

「私たちOVAの相談窓口に寄せられる子どもたちの悩みの多くは『学校に行きたくない』とか『家族との関係』といったもので、内容自体はコロナ以前から大きく変わっていません。ただ、時代とともに子どもを取り巻く環境が変化してきたと感じています」

 自殺には自殺のリスクを上げる「危険因子」と、リスクを下げる「保護因子」がある。今、家庭での虐待や学校でのいじめなど、子どもを取り巻く危険因子は増えている。一方で、地域社会から子どもの居場所となり得る「中間共同体」が失われ、家庭や学校では親も教員も余裕がないので自殺予防で重要とされるゲートキーパー(命の門番)の機能が落ちていると伊藤さんは言う。

「つまり、危険因子が上がっただけではなく、保護因子も落ちています」

次のページ
女子の自殺者増える