東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 2月25日、自公と維新が党首会談を行い、高校授業料無償化を柱とした合意文書に調印した。これで来年度予算の衆院通過が可能になり、与党は危機を脱した。他方で国民が交渉していた年収103万円の壁の見直しとガソリン税減税は仕切り直しとなった。

 昨年秋の衆院選では国民が公示前の4倍の28議席へと躍進した。一方の維新は公示前の44議席から38議席へと減らした。結果だけみれば維新が大きいが、有権者の期待は明らかに国民に傾いている。朝日新聞の2月の世論調査では、参院選比例区の投票先で国民が16%で野党トップ。30〜40代では自民さえ超えた。対照的に維新は5%で落ちる一方だ。

 そんななか、維新は与党と組んで、国民が粘り強く進めてきた減税交渉を阻んだかたちになる。確かに自党の政策の実現に全力を尽くすのは当然だ。維新と国民が争うのも与党を利するだけだ。とはいえ、この展開に失望した有権者は少なくないのではないか。

 有権者の重税感は強い。SNSでは「財務省解体デモ」が話題だ。昨年末有志の呼びかけで始まった集会が、2月24日には1千人を集める規模になった。参加者の主張を見るとかなり極端だ。とはいえ痛みの表現であることも事実だ。

 本来は維新はそのような声に敏感な改革政党だったはずだ。それがいまはどうか。大阪・関西万博はいまだに問題山積みで、毎日新聞の2月の世論調査では「行きたいとは思わない」が67%という衝撃的な結果が出ている。自公への接近は万博を睨んだものと言われるが、そんな空虚なお祭りを大金を投じ盛り上げることのどこが改革なのか。

 規律も緩んでいる。兵庫県の内部告発問題では、2人の県議が情報漏洩で処分となった。元大阪維新の会の岸和田市市長は2度目の不信任決議で失職、性のスキャンダルで市政を混乱させ続けている。

 維新(現・日本維新の会)は今年で結党10年になる。前身の地域政党まで遡れば15年だ。そのあいだ草の根の努力で支持を広げてきた。その蓄積が一気に失われつつある。維新はもういちど結党時の精神に立ち返るべきではないだろうか。

AERA 2025年3月10日号

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