テレビ東京プロデューサー:大森時生さん(おおもり・ときお)/1995年生まれ。「Aマッソのがんばれ奥様ッソ!」「祓除」「TXQ FICTION」などを担当。2023年、「世界を変える30歳未満 Forbes JAPAN 30 UNDER 30」に選出された(c)行方不明展製作委員会
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 近年、ホラー系のコンテンツが盛り上がりを見せている。展覧会「行方不明展」は長蛇の列ができ、多くの若者たちを惹きつけている。なぜ「怖い」ものを求めるのか。令和のホラーブームをひもとく。AERA 2025年2月24日号より。

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「かえってきてください」──。壁に無数に貼られた捜索チラシ。子どもがいなかったはずの家屋から見つかった手押し車などの遺留品。「行方不明」を連想させる物品や情報などさまざまな「痕跡」52点を集めた展覧会が昨年7月、東京で開催された。

 その名も「行方不明展」。不穏さが評判を呼び、長蛇の列ができ60分待ちの展示も。約7万人を動員、関係者も驚く異例の人気だった。手がけたのはホラー作家の梨さん、ホラーとテクノロジー(ホラテク)がテーマの「株式会社闇」、そして行方不明になった女性を公開捜索する体裁のフェイクドキュメンタリー番組「イシナガキクエを探しています」が昨年評判となったテレビ東京プロデューサー、大森時生さん。現在、名古屋・大須でも開催されている。

言語化しにくい恐怖

 そもそも「行方不明」という言葉。それ自体がすでに不気味さを伴う。なぜか。大森さんはこう話す。

「行方不明って、多層的なもの。見ているこちらが『消えた』と思っているだけで実は本人が望んだ結果かもしれないし、そこの境界線は曖昧です。『これの何が、なぜ怖いのか』が明確になっていないことがまさに、怖さにつながっていると思います」

 展覧会を見た人からは「展示された『モノ』は生々しく、誰ともわからない人の実在感が迫ってくる」「積まれたガラケーや枕などは明らかに使用感があり心がざわざわする」といった声も。中でも多いのが、「この怖さ、言葉にできない」というものだ。大森さんは「対象が明確じゃない何かに脅かされる恐怖は、言語化しにくいと思います。嬉しい感想です」としつつ、こうも言う。

「モチーフとしてあるのは『ここではないどこかに行きたい』という欲求を持った人の前に、異世界への扉が現れるという世界観。そういう気持ちは、現代に生きる人なら誰しもありますよね。でもそんな気持ちにふっと引き寄せられそうになると、後戻りできない感じがして怖くもある。そしてそれも、言語化しにくいものだと思います」

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