成宮寛貴(撮影/写真映像部・和仁貢介)

すべてが新鮮に映ったヨーロッパでの暮らし

 その他にも、ヨーロッパでの生活が成宮に与えた影響は大きかった。

「街を歩いているだけで楽しかったし、いろいろとインスパイアされることがありました。たとえば、何百年前の建物が今でも普通にアパートメントとして使われている。建築の重み、デザイン、北欧ならではの色使い、家具などの質の良さ。それなのに、意外にも価格が安いことなど、どれもが新鮮でした。ヨーロッパの人たちは夕方に仕事を終え、オープンテラスに集まりビールを飲んで、食事に行く。そして食事の後、また少し飲んで、自然にそれぞれの家に帰っていく。そのスタイルがすてきだと思ったし、心地よかったです。街の外灯などのライティングも美しかったので、夜の街を歩くのも好きでした」

 こうしたヨーロッパの生活の中で、自然に描き始めた絵を少しずつ発表していくと良い反応が届く事も多くなってきた。そこで、「プロダクト」に携わる仕事に興味がわいてきたという。

「デザインの仕事やプロダクトワークを手掛けてみたいと初めて感じたんです。少しずつではあるけれど、自分の好きな事から始めていければと思い『HN Product』をスタートしました」

 本名・平宮博重(なりみや・ひろしげ)の頭文字をとったアパレル&アクセサリーブランド「HN Product」ではマグカップなどの小物と雑貨の販売、企業のデザインコンサルティングなどを手がけ、帰国後はポップアップストアの展開をするなど実業家としての一歩を踏み出した。

成宮寛貴(撮影/写真映像部・和仁貢介)

 コロナの感染拡大の影響で、インドネシアにある縫製工場が倒産寸前だと聞いた成宮は、現地のデザイナーと一緒にその工場にプロダクトの生産を依頼した。

「それがきっかけで、自分のアパレルのプロダクトをそのデザイナーと手がけていくようになりました。自分のプロダクトが誰かの役に立てるなら、こんなに素敵なことはありません」

 エンターテイメントの世界から離れて「なりたい自分」の輪郭が見え始めてきた。

【後編】では帰国してからの活動や8年ぶりに俳優復帰するまでのいきさつ、思い描く未来について語った。(【後編】は2月21日に公開予定)

(笠井千晶)

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