青く澄んだ秋の空の下金色の稲の穂が深く垂れ下がる。秋の実りの風景は日本人の心のふるさとではないでしょうか。
新米が店先に並び始めましたね。召し上がった方もたくさんいらっしゃると思います。
お米は日本人にとって一番なじみ深い食べ物。今年のお米の収穫を感謝して伊勢神宮では15日、16日、17日と神嘗祭が行われています。
伊勢神宮といえば先年、式年遷宮で話題になりました。二千年の歴史をもち、内宮、外宮をはじめとする多くの宮社がある日本人の心のふるさと、といえるかもしれません。
神嘗祭、お米の収穫をどんなふうに感謝するのでしょう?
神嘗祭の始まりは古く、養老5年(721)から1300年ちかく続いている伊勢神宮のお祭りです。天皇陛下の大御心にのっとって、天照大御神(あまてらすおおみかみ)に今年収穫された稲を奉り、感謝を捧げる祭典です。
伊勢神宮はご存じのように内宮と外宮のふたつがあります。内宮の皇大神宮(こうたいじんぐう)は皇室の祖先である天照大御神をお祀りしています。一方の外宮の豊受大神宮(とようけだいじんぐう)は、内宮の天照大御神のお食事を司る御饌都神(みけつかみ)である、豊受大御神(とようけのおおみかみ)をお祀りしており、衣食住、産業の守り神とされています。
祭典は外宮は15日(土)の午後10時から16日(日)、内宮は16日(日)の午後10時から17日(月)とそれぞれの正宮で行われます。
午後10時 由貴夕大御饌(ゆきのゆうべのおおみけ)
午前 2時 由貴朝大御饌(ゆきのあしたのおおみけ)
正午 奉幣(ほうへい)
午後 6時 御神楽(みかぐら)
大御饌(おおみけ)というのは立派な食事という意味。海川山野のもの、神田(しんでん)で収穫された新米を玄米のまま蒸して土器に盛り、ついてお餅にしたもの、そして白酒(しろき)黒酒(くろき)のお酒をお供えします。
夕と朝、どちらも夜の暗闇の中にともされた火をたよりに、真っ白な装束に身を包んだ神官たちが、厳粛な祈りを捧げて行われるようです。
奉幣(ほうへい)は天皇陛下が遣わされた勅使が、幣帛(へいはく)という神への捧げ物を奉納することです。神宮では五色(青、黄、赤、白、黒)の絹の反物などが奉納されるようです。
御神楽(みかぐら)は御祭神を慰めるために行われる神楽です。神様に喜んでいただいてお祭りは締めくくられます。
神嘗祭のようすは伊勢神宮のHPで動画が見られます。このような祈念が積み重ねられて今の日本があるのですね。
多くの祈りが神嘗祭が行われるまでに捧げられています
伊勢神宮では秋の神嘗祭を行うために、春から数々の祭祀を行っています。これも多くの方には知られていませんね。
春分の日には神宮御園(じんぐうみその)で、野菜や果物の豊作を祈り御園祭(みそのさい)が行われます。
4月上旬は、神田下種祭(しんでんげしゅさい)が行われます。これは稲が立派に育つように祈りを捧げたのち、御田歌(みたうた)にあわせて神田に忌種(ゆだね)という神聖な稲の種をまく祭です。
5月14日と8月4日は風日祈祭(かざひのみさい)が行われます。これは御幣、御蓑、御笠を捧げて、五穀豊穣と天候が順調であるように祈ります。本来は雨や風ではなく、太陽に2ヶ月間祈りを込めるものだったといわれているそうです。どちらにしろ、稲を作るのに自然の恵みを受けなければできない、ということがわかります。
9月上旬には抜穂祭(ぬいほさい)を行います。神嘗祭に備える御料米(ごりょうまい)の稲穂を抜くものです。昔は稲穂を一本一本手で抜きとっていた名残といわれています。
そして神嘗祭直前10月15日には、興玉神祭(おきたまのかみさい)といって地主の神である興玉神を内宮内にお祭りした後、御卜(みうら)という奉仕にあたる神職が神の御心にかなうかどうかを占う行事が行われます。
稲の種まきから収穫まで、心身を浄め祈りに徹した中にお米の収穫を待つ姿には、真面目さや忍耐強さといった日本人がもっている原点がみえてきませんか?
新米、いつ食べる? どうやって食べる?
さて、大切に育てられてきたお米ですが、実は食べ始める日があったのをご存じですか?
神嘗祭のあとの11月23日。今は勤労感謝の日となっていますが、昔は「新嘗祭」といって、天皇陛下が神々に新米を差し上げる祭祀をなさったあと、初めて新米を口にされる日なのです。ですからそれまで国民は新米を口にしてはいけないとされてきたとか。日本人がお米を本当に大切にしてきたということがわかるエピソードですね。
この日は日本全国の神社でも、天神地祇すべての神々に収穫を感謝する新嘗祭が行われます。
今や店頭にでてくれば誰でもが新米を楽しむことができます。
実りの秋をたっぷりと入れた新米のごはんで楽しむのも良し! またお酒の好きな方は「新米新酒」がでてくるのを期待していらっしゃる、そんな方も多いことでしょう。
何よりも美味しくお米をいただくのは、もしかしたらほんのりと「塩のきいたおむすび」かもしれません。
それぞれの家庭で、ご自分の好きな味で新しい実りを味わいましょう。神の宿りし米をいただけば、きっと心も身体も健やかになる、そう信じたくなるのではありませんか。