必要とされたいから、「いい子」でいるしかなかった――。家族に放置され、自分が「発達障害」だと気づかないまま大人になった女性がいる。女性は発達障害の診断時に、家族からのネグレクトと精神的虐待を認識した。家族の呪縛から自分を解放し、自分を認めて歩き出すまでを聞いた。
【漫画で読む】ネグレクトや精神的虐待を超えて…女性が向き合った「家族の呪縛」
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小学生のころから「強迫行為」
「病院に行ったし、菌がついてるかも。手洗わなきゃ……」
「カバンも財布もスマホも外で触ったものはみんな汚い。全部除菌しなきゃ」
「また手が汚れた。洗わなきゃ」
強迫観念にとらわれて、手洗いをやめられない。カギがかかっているか、確認に時間をとられ、思うように日常をおくることができない。典型的な強迫性障害の症状だ。
強迫性障害とは、気がかりなこと(強迫観念)が頭から離れず、不安を打ち消す行為(強迫行為)を繰り返してしまう、精神的な疾患だ。
一連の強迫行為の後、ネコゼさん(30代)は「疲れた」と座り込み、荒れてボロボロになった手を見つめ、つぶやく。
「これいつまで続くんだろう。私ずっとこのままなのかな……」
小学校低学年のころから、ネコゼさんはこうした強迫性障害に苦しんできた。
だが、それを両親に相談できる環境ではなかった。
「両親が私に関心がないことは、物心ついたころからずっと感じていました。父も母も、大切にしているのは兄たちでした」
自分だけ絆創膏1枚で終わり
ネコゼさんは3人きょうだいの末っ子だ。
3つ上の長兄は重度知的障害者で、2つ上の次兄は軽度知的障害者。両親は何をおいても兄たちを最優先したという。
「たとえばケガをしたら、私なら絆創膏を1枚わたされて終わりですが、兄たちの場合は慌てて病院に連れて行くんです」
長兄は障害の特性で感情をコントロールできず、怒りをひんぱんに爆発させる。その矛先は常に、妹のネコゼさんに向かった。
「普通の子なんだから、我慢しなさい」
怒声を発し、テレビの音量を最大限まで上げ、リモコンを叩きつけて大きな音を立てる。「やめて!」と文句を言ったり抗議をしたりすると、ますます激高する。そのたび、母親はこう言ってネコゼさんを叱った。
「あんたは普通の子なんだから、我慢しなさい」
普通の子――。
「私は普通の子だから」。
いつしかネコゼさんもその言葉を、ひたすら自分に言い聞かせるようになっていた。
強迫観念にとらわれたり、どんなに気をつけても忘れ物があったりして困ることもあった。