それでそのメーカーの製品の何が遅れていたのかというと、操作パネルがキーボードのままだったのだそうだ。

 他社製品はスマホと同じタッチパネルを操作パネルとして使っていた。これならスマホ入力に慣れているアジアの工場従業員にとっても使いやすいし、設計思想的にも用途や設置環境、ソフトウェアバージョン変更などに応じて柔軟に操作パネルのインターフェースを変更することもできる。

 日本国内では同じ不満を工場の若手工員は感じていたそうだが、声が小さくて上には伝わらなかったようだ。ところがアジアの顧客の場合は、ロボットを使う工場の上の方の人間や、本社の購買意思決定者も、最初からスマホ世代という国が少なくない。アジアの変化に日本の本社のキーボード世代のおじさんたちがついていけなかった結果、シェアを落とすという、一風変わった業績悪化が起きたのだ。

●デスク上のパソコンは邪魔物に すべての業務がスマホになる日

 入力インターフェースが進化した場合、変化に取り残されるのは、実際のところ若者ではなく中高年だ。

 私が社会人になった1980年代半ばは、ちょうど会社の業務が急激に手書きからワープロに移行した時期だった。この変化に団塊の世代の中間管理職のみなさんが、なかなかついていけなかった。

 なにしろワープロのキーボードは不規則な配列をしている。あいうえお順やabc順ならともかく、あの大昔にタイプライターを発明した外国人が、よく使うキーを中央部に、あまり使わないキーを周辺にと設計したのがキーボードの起源なので、40歳になったおじさんに「これからは業務がこうなるので覚えなさい」と言っても無理な状況だった。

 なのでこの時代の大企業では、中高年の管理職は自分では報告書を書かずに主にチェックする役割に徹するか、ないしは手書きの原稿を若い社員に渡してワープロで清書をしてもらうという形で業務が回っていた。

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