作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は2つの性犯罪事件の「無罪主張」に思う、日本社会の「タイムスリップ感」について。
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渋谷のスクランブル交差点でのこと。青信号に変わり人々が大量に道の真ん中に流れ込むなか、特別に目立つ女性がいた。彼女はゆったりとたばこを吸いながら歩いていた。コートも着ず、毛玉のついたヨレヨレのトレーナー上下で、伸びた髪を後ろで一つにまとめ、がに股で、空を見上げるように歩いていた。ホームレスかもしれないが、それにしては荷物は小さなリュックだけで、軽そうだ。髪の毛は真っ黒で、まだ若いのかもしれないが、身体から放つ空気は多分50代前半だろうか。四方八方から人々がせわしなくすれ違う交差点の真ん中で、火をつけたばかりの長いたばこを片手にした女性は、クッキリと周りの景色から切り取ったように、浮いていた。
私は彼女の真後ろを歩いていた。すれ違う人はもれなく彼女を振り返っていた。あからさまに睨みつける人、興味深そうにのぞき込む人、わざとらしく大げさに避ける人……彼女の後ろを歩いていた私は、彼女から流れるタバコの煙を直接受けながら、彼女を凝視する人たちの顔を見ていた。こんなふうにジロジロ見られて気にならないのかなぁ……と思いながら、ふと、変な考えがよぎる。
あれ? もしかしてこの人、タイムスリップしちゃった人? 「すみませ〜ん、今、何年ですか?」なんて聞いてみちゃったりしたら、何年って答えるのかな〜、2024年の渋谷で歩きたばこはできないんだよって言ったら驚くだろうなぁ〜ハハハ〜なんてことを想像しながら歩いていた。
その時、前方からすれ違った若い男女カップルが、彼女の顔をのぞき込み、すれ違いざまにこう言うのが聞こえた。
「うわー、昭和かよ」
え? 違うよ、昭和じゃねーよ!!