「ビル・ゲイツ氏らまでの起業家はまだ従来の政治経済構造に則っていたが、マスク氏らの新起業家は、採算性や効率性を政治に求め、規制撤廃で格差社会を進めることで富裕層だけが助かる世界経営を目指す。彼らは弱者救済は諦めており、“アメリカ・ファースト”を隠れ蓑とした企業国家的切り捨て政策が進められるだろう」
wokeの動き嫌われ
選挙後、「woke」という言葉にも注目が集まっている。人種や性別、性的指向に対する差別をなくし、社会的不平等を戒めていく目覚め(wake)を指す。黒人初のオバマ元大統領の誕生、LGBTQの権利運動、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」運動などが形成してきたトレンドだ。社会的に好ましくない発言や行動をした個人や組織をSNSなどで糾弾し、不買運動やボイコットを通じて社会から排除する「キャンセル・カルチャー」も含まれる。こうした動きが、共和党・保守派側から「意識高い系」と捉えられてかなり嫌われている。南部フロリダ州知事のロン・デサンティス氏(共和党)は、「ストップWOKE法」に笑顔で署名し、LGBTQや黒人作家の本を学校から取り除く「禁書」プログラムの後ろ盾とした。
選挙後は、この「woke」が行き過ぎたために、「意識高い系」ではない労働者階級が、トランスジェンダーや不法移民を攻撃し、敵視するのにつながったという見方が広がっている。その延長には、女性の国家元首誕生に対する恐怖感もある。社会的平等を求めるのは人権問題であり、流れとしては正しいことであるにもかかわらず、リベラル思想が進んで形成されたwokeが、民主党の中でさえ「スケープゴート」になっているという。「woke」たたきがこのまま続けば、米国ではさらなる不平等が進む可能性が大きい。
記者は投開票日直前の11月3日の日曜日朝、ジョージア州アトランタ中心部にあるプロテスタントのユナイテッド・メソディスト教会に顔を出した。ミサとはいえ、今回の歴史的に異常な選挙を前に緊張感が立ち込めていた。前半をリードした牧師の祈りはこうだった。
「私たちが、意見が異なる人の声も聞くように導いてください」
祈りは、選挙後の分断や格差が進む米国を強く意識したものだったことが思い出される。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)
※AERA 2024年11月25日号より抜粋