ナセル病院の手術室で術後の重傷乳児を診る中嶋優子医師=2023年11月20日(写真 国境なき医師団提供)

-----

《11月20日の日記から》

パレスチナ人救急医(彼は普段はイギリスにいるが里帰り中に戦争が始まってしまい帰れなくなってしまってナセル病院で働いていた)にERの仕組みを教えてもらった。よくわかった。良かった。トリアージシステム(治療優先順位を決めること)とか動線とかはしっかりあるけど実際に行われていないことが多い。どこをどう改善したら良いのだろうか……。

-----

 この連載の第2回でも少し書いたが、ナセル病院では同時に大勢の患者が搬送されてくることに加え、医療者側も通常の体制ではなく、普段一緒に働いていないボランティアの医師や医療スタッフも多く、全体の統制がとれていなかったように見えた。それぞれの専門科の医師がそれぞれの視点で自分のできる手技(例えば、骨折の整復固定や呼吸困難症例の気管内挿管、胸腔ドレーン挿入など)を施して終わると誰にも連絡せずに次の人に移ってしまい、患者さんを包括的に責任を持って入院先までコーディネートすることができていなかった。

 私自身、アメリカで救急専門医として10年以上働いているが、アメリカの救急医は実はコーディネーション的な役割がメインだったりする。重症の患者が運ばれてきた時は、容体を確認したら、家族とのコミュニケーション、コンサルト、研修医や医学生、パラメディック、看護師、助手等々をそれぞれの専門性や能力を見極めて動員し、また入院先を判断、確保して、患者さんが入院するまでコーディネーションをする。今回の私の見た救急室では、たくさんの医療スタッフが総動員で頑張ってそれぞれの治療をしているのだが、統括コーディネーションのシステムが機能しておらず、処置だけ受けた患者さんがそのまま放置されていることが散見された。このカオスな状況をどう改善したらいいのか……。これは救急対応の話だが、マス・カジュアリティー時の入り口のトリアージのシステムはちゃんとありつつも機能していなかった。いろいろなスタッフにヒアリングするなど情報を収集しながら、悩んでいた。

AERAオンライン限定記事

中嶋優子(なかじま・ゆうこ)

東京都出身。東京都立国際高校、札幌医科大学卒業。日本と米国の医師免許を持つ。日本で麻酔科医として勤務の後2010年に渡米、救急医療の研修を開始。2014年に米国救急専門医取得、2017年には日本人として初めて米国プレホスピタル・災害医療専門医を取得。国境なき医師団には2009年に登録。2010年に初めての海外派遣でナイジェリアで活動し、その後もパキスタン、シリア、南スーダン、イエメン、シリア、イラクで活動。2023年11~12月にかけてパレスチナ自治区ガザ地区で活動した。現在は米アトランタ・エモリー大学救急部の助教授を務め、24年9月からは准教授職に。

暮らしとモノ班 for promotion
大人向けになった!「プラレール リアルクラス」は飾って良し、走らせて良しの再現度にときめく