甲斐 希子さんは常に明るく、凛としている。国際的に活躍しながらも、実際は傷ついていることもある中で、それをうまく受け止めて生きている。人間力が凄いです。今回の役はカタルシスなところもありますが、私の想像を超えていきました。
男性という壁を越える
──ウィメンズ・エンパワーメント部門に選出されました。
水原 才能ある女性が輝ける場所が増えてほしいです。アメリカでは女性が強くバリバリ活躍していますし、中国にも女性社長が多く、日本の映画業界は女性の進出が遅れていると言われています。
甲斐 昔は「女性」という理由で仕事を断られたこともありました。世界的に見ても日本の女性監督の割合は低いですし、批評家も女性が少ないです。
水原 私も現場で「女性」で悔しい思いをしたことがあります。一番嫌だったのは、セクハラです。目的や表現方法、環境が双方で納得できている場合は抵抗ありませんが、「女優だから当然できるでしょ?」というようなエゴが押し付けられるのは侮辱ですし、対等な立場ではなくなってしまいます。 そのような場面では、全員の前で嫌だと言うしかなく、それで生意気だというレッテルが貼られることもありました。
甲斐 魔女裁判のようで、精神的にきついですね。
水原 言わない方が楽かもしれませんが、それだと自分を許せないんですよね(笑)。でもその経験がきっかけで、日本で初の、インティマシーコーディネーターの導入に繋がりました。 アメリカの女優の友人に、裸のシーンについて相談したところ、インティマシーコーディネーターのことを教えてくれました。セクシュアルな表現は、俳優にとって精神的な負担が大きく、誤解もされやすい。監督と俳優の間にミスコミュニケーションが生じないようにサポートすることが重要ですが、そのサポートを導入したことで、後に男性俳優の方々からも「とても助かった」と喜ばれたと聞き、嬉しく思いました。多国籍である私だからこそ、女性が活躍できる場所を作るために貢献できたのだと思います。
甲斐 男女平等って、映画監督においても難しいですよね。女性だから綺麗な表現とか、男性だからバイオレンスが得意とか、性別を意識せずに映画を見てもらいたいですね。
水原 本当に難しい課題です。疑問や不安に思ったことを、きちんと議論できる場が大事だと思います。そうすれば、チーム全員で理解を深めていくことができるのに、何故か日本では難しいのが現状です。 まだまだ時間はかかると思います。だからこそ、私は自分の好きなことに挑戦し続け、常に輝いていたいと思います。それが、次世代の女性たちに勇気を与えることにつながり、女性も男性の壁を越えて活躍できると信じています。
【プロフィール】みずはら・きこ/俳優、モデルとしてマルチに活躍。2010年に映画「ノルウェイの森」でスクリーンデビューし、その後も多くの映画に出演。「あのこは貴族」では高崎映画祭で最優秀助演俳優賞を受賞。アメリカのブランド、OPENING CEREMONYとのコラボレーションライン「Kiko Mizuhara for OPENING CEREMONY」を手掛け、世界的シンガーのリアーナやビヨンセが着用したことで話題に。日本語と英語を話し、Instagramでは783.9万人(10月現在)ものフォロワーを持つ
【プロフィール】かい・さやか/1979年生まれ。映画監督・脚本家。映画「赤い雪 Red Snow」(2019)で第14回JAJFF(Los Angeles Japan Film Festival) 最優秀作品賞を受賞するなど、国内外で注目を集める。最新作の長編映画「徒花-ADABANA-」がテアトル新宿、TOHOシネマズほかで全国順次公開中