人の都合で無理な繁殖、病を招く交配、幼くても出荷、「不良在庫」を引き取る闇商売……。「かわいい」の裏側で、犬や猫たちがビジネスの「奴隷」となっている現状。足かけ17年取材を続けてきた朝日新聞記者・太田匡彦さんが、ペットビジネスの凄惨な実態を暴いた著書『猫を救うのは誰か ペットビジネスの「奴隷たち」』。どんな思いで取材を続けてきたのか、文庫版の発売を記念して太田記者が「一冊の本」2024年10月号に寄稿した文章を特別に公開します。
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22万3118匹。2014年度から22年度の9年間に、繁殖から流通、小売りまでの過程で死んだ犬猫の数です。繁殖業者やペットショップが年度ごとに所管自治体へ提出する「犬猫等販売業者定期報告届出書」を独自に調査、集計してはじめてわかりました。
この死亡数に、原則として死産は含まれません。また繁殖に使われたのちに繁殖能力が衰えて引退させた犬猫は「販売または引き渡した数」として集計されるため、寿命で死んだような犬猫も含まれていません。同届出書の提出義務を順守しない業者も少なからず存在します。22年度でみると、提出率は84.6%でした。さらに言えば、業者のすべてが正直に死亡数を報告するとは思えず、どちらかといえば少なめの数を書く可能性が高い。
それでも毎年約2万5千匹という数に達します。流通過程におけるこの死亡数は、全国の自治体による殺処分数(22年度は1万7241匹、環境省調べ、負傷動物を含む)をゆうに上回るものです。ペットショップの明るいショーケースのなかで無邪気に遊ぶ子犬・子猫たちの背景には、これだけの数の犠牲があり、深い闇が広がっているのです。
足かけ17年、ペット業界を取材してきました。取材を始めた頃は、行政も業者も取りつくしまもありませんでした。行政職員は、動物愛護センターや保健所で何が行われているのか、その実情を隠したがりました。業者はそもそも取材拒否です。ひたすら情報公開請求を行い、山と積んだ開示資料に向き合い、まずは業者が売れ残りや繁殖引退犬を行政に持ち込み、行政はその犬たちを殺処分している実態を暴きました(犬ビジネスの『闇』 流通システムが犬を殺す「AERA」2008年12月8日号)。
いま思えばこのときはまだ、ペット業界の闇の一端に触れたに過ぎませんでした。取材をすればするほど、動物たちをモノとしか見ていない、場合によってはモノ以下のような扱いをする、残酷な世界に足を踏み入れていくことになりました。