【メリーチョコレートカムパニー】 マーケティング本部研究開発部:大石茂之(おおいし・しげゆき)さん/1971年生まれ、埼玉県出身。95年、入社。2010年から製品開発室(現研究開発部)に配属。22年、インターナショナルチョコレートアワード世界大会で金賞受賞など受賞多数(撮影/写真映像部・東川哲也)
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 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年10月14日号にはメリーチョコレートカムパニー マーケティング本部研究開発部 大石茂之さんが登場した。

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 チョコレートやクッキーなどすべての商品の味や品質を管理する。社の命運をにぎる重要な職務を果たす一方で、チョコレート専門の菓子職人として世界を舞台に数々の賞を受賞。社内で「サラリーマンショコラティエ」の異名を取る。

 得意とするのは、チョコレートと和の素材の融合。抹茶や日本酒、和三盆糖などとの組み合わせで繊細な味わいを生み出す。和菓子のモチーフを取り入れた精巧な技術にも定評があり、世界のチョコレートファンを魅了する。

 2016年に、パリで開かれる世界最大級のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」で、最も栄誉ある「外国人部門C.C.C.アワード」を受賞。和の素材で日本の風情を表現しようと、野外の茶会、野点をコンセプトに甘めのみたらしと渋めの抹茶をチョコレートに合わせた。

 22年には、世界的に権威のある「インターナショナルチョコレートアワード(ICA)」の金賞を受賞。「すだちと薔薇」と名づけたチョコレートには、山形県の日本酒に漬けた朝摘みのバラの花びらから抽出した香りと、徳島県産のすだち果汁を加えた。

 このバラに出合ったのは、ある展示会だった。口に含んだ瞬間「絶対チョコに合う」と確信した。生産者に直接交渉し、販売してもらえることになった。

 それからは試作の繰り返しだった。日本酒とバラの量の割合、日本酒に漬ける時間や温度、チョコレートの種類──。少しずつ変えながら3、4カ月をかけて傑作にたどり着いた。

 ユニークな発想は農協の販売所や道の駅などで旬の食材を見て回ることから生まれる。「どんなふうに食べたらおいしいか」「どんなお酒に合うか」。最後に「チョコレートに合うか」と想像し、合いそうなら買って試してみる。

 実際に合わせてみると、思った通りの味になることはまれだ。「目指す味にたどり着かず苦心することばかりです。それでももう少し何かを加えたらおいしくなるのでは、と試行錯誤を繰り返す。終わりのない世界です」

 それでも想像通りのチョコレートを生み出すまで絶対にあきらめることはない。「できたチョコを食べた人がどんなふうに感じるか。想像するだけでワクワクします」

(ライター・浴野朝香)

AERA 2024年10月14日号