【写真】この映画の写真をもっと見る

(c)Hangzhou Enlightenment Films

 中国・杭州市。西湖のほとりに暮らすタイホア(ジアン・チンチン)は茶畑で働き、一人息子ムーリエン(ウー・レイ)を育てあげた。だがあることから茶畑を追い出され、違法ビジネスの闇に堕ちてしまう──。前作「春江水暖〜しゅんこうすいだん」で世界を仰天させた中国の若き才能の第2弾「西湖畔(せいこはん)に生きる」。脚本も務めたグー・シャオガン監督に本作の見どころを聞いた。

*  *  *

(c)Hangzhou Enlightenment Films
この記事の写真をすべて見る
(c)Hangzhou Enlightenment Films
(c)Hangzhou Enlightenment Films

 私の親族の一人がマルチ商法にのめり込んでしまったんです。本人は真剣に信じているけれど、家族には彼女が完全に洗脳されているとわかる。しかしどんなに説得してもダメなのです。この構造はある種、宗教と同じですよね。

 私は前作「春江水暖〜しゅんこうすいだん」で「山水画」の哲学を映画で表せないかと考え「山水映画」というジャンルを生み出しました。山水映画では伝統と現代のコントラストを大事なテーマにしています。主人公タイホアのように無限の欲望によって本来の自分を見失ってしまう状況はまさに現代文明の暗部を表していると思い、本作の題材にしました。

 中国では3億〜5億人がマルチと接触したことがあるというデータがあります。私は実際にマルチのセミナーを体験し、彼らが決してお金のためだけに参加しているのではないと知りました。人々はマルチを通して今まで体験したことのない社会的な身分や階級的な役割を演じることができるのです。タイホアは農民ですが、マルチ商法のなかではマネージャーになれるかもしれない。これは現実の社会構造のなかでは実現できないことです。その達成感が彼らをこんなにも惹きつけ、信じさせてしまうのだとわかりました。

グー・シャオガン(監督・共同脚本)顧暁剛/1988年、浙江省杭州出身。初長編「春江水暖~しゅんこうすいだん」が2019年カンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品に選出。全国順次公開中(撮影/写真映像部・和仁貢介)

 人間が最終的に追求したいものはやはり「自分とは誰なのか」「自分の人生の意味はどこにあるのか」です。それを求めて大きな代価を払ってしまうことはどこの国でも共通なのかなと思います。

「人間が真に自立できる基準とはコントロールされないこと、そして依存しないことだ」という言葉があります。外からの言葉に従わず、自身の内面や経験から得られた答えに従うということです。観客のみなさんにぜひ本作を自由に読み解いてもらえればと思います。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2024年10月7日号