教員不足や先生の多忙化が深刻化する中、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーなどの学校援助職の配置が拡大しています(写真はイメージです)写真/Getty Images
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「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

【写真】不登校の相談、スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーのアプローチの違いとは?

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 9月後半になりました。このコラムでも何度か書いたように、この夏は2カ月ほど療養させてもらい、9月の3週目からようやく日常に戻りました。我が家の高校生の子どもたちは、夏休みが明けてすぐにテスト期間に入ったので、お弁当の準備も必要なく、のんびり過ごさせてもらいました。今、私自身も長い夏休みが終わった気分です。無事に仕事にも復帰しました。

 私は現在、県の教育委員会でスクールソーシャルワーカー(以下、SSW)として非常勤で働いています。ここ数年、SSWは小学校から高校までの多くの学校に配置されていますが、まだまだ認知度が低く、スクールカウンセラー(以下、SC)との違いを聞かれることがよくあります。

 今回はSCとSSWの違いについて書いてみようと思います。

心に働き掛けるSC、環境に目を向けるSSW

 一般的にSCは公認心理師か臨床心理士、SSWは社会福祉士か精神保健福祉士が担うことが多いと思います。どちらも生徒や保護者らの相談に乗り、一緒に解決策を見いだすので業務内容が重なる部分も多いのですが、それぞれの専門が、医療分野である「心」と福祉分野である「環境」という大きな違いがあります。そのため、SCとSSWが協力してひとつのケースに対応する場合もあります。

 たとえば(以下の事例はすべてフィクションです)、不登校状態が続いている「Aちゃん」がいたとします。登校できない理由は友人関係の悪化だとAちゃんは言っています。友人とのやりとりで深く傷ついたAちゃんは、学校に来ることが負担になっていました。 

 この場合、学校から依頼を受けたSCは、Aちゃんの「心」に働きかけます。カウンセラーと話すうちに、誰にも言えずにいた過去のつらかった体験や悩みを話してくれるようになることもよくあります。一見、今回の相談ケースとは無関係に思えても、そこから始まった「考え方のくせ」のようなものがその後の人間関係に影響を与える場合があるとされているため、こうした信頼関係はとても重要です。SCはAちゃんの不安や恐怖が少しでも快方に向かうように話を聞き、登校につながるようにサポートします。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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