副題は〈魔法のぐっすり絵本〉。帯には〈たった10分で、寝かしつけ!〉の文字。カール=ヨハン・エリーン『おやすみ、ロジャー』は、寝ない子どもに手を焼く親御さんの救世主みたいな絵本である。
〈ゆっくりと、できるだけおとぎ話にふさわしい声で、他のことにいっさい邪魔されない環境で読みきかせてください〉などの注意書きのほか、太字は〈言葉や文を強調して読む〉、色のついた文字は〈ゆっくり、静かな声で読む〉などの指示つき。【なまえ】とある箇所には子どもの名前を代入し、【あくびする】などの指示があれば実際にあくびもする。
〈さーて、いまからとっても眠くなるお話をしましょうか。すぐ眠っちゃう子もいるし、夢の国につくまでにちょっとだけ時間がかかる子もいます。【あくびする】【なまえ】はどっちかな?〉ってな具合。
お話はうさぎのロジャーと聞き手の子どもが、いますぐ眠らせてくれる「あくびおじさん」に会いに行くという内容だ。ふたりは坂道を下る。〈おりていく、おりていく、もっとおりていく、そう、そう、いいね〉。途中で出会った「おねむのカタツムリ」は〈歩くのもゆっくり、とてもゆっくり。動くのもゆっくり、とてもゆっくり〉。次に会った「ウトウトフクロウ」は体の力の抜き方を教えながら〈ゆっくりと、落ちていく、落ちていく、落ちていく、ゆっくり落ちていく〉。
引用したのはすべて〈ゆっくり、静かな声で読む〉と指示された箇所。のんびりした声と繰り返しの効果で眠くなるという寸法だが、要は「あなたはだんだん眠くなる、眠くなる」という催眠術と同じ?
だまし討ちめいているけど、こういう本が世界中でベストセラーになるのは親が忙しくなった証拠かも。著者はスウェーデンの行動科学者。監訳者の三橋美穂さんは快眠セラピスト。不眠症の大人にも効くかどうかは不明だが、〈車を運転している人のそばで絶対に音読しないこと〉という巻頭の注意書きに笑った。
※週刊朝日 2016年3月18日号