全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年8月26日号にはアートモリヤ 藍左師(あいさし) 守谷玲太さんが登場した。
【写真特集】大物がズラリ!AERA表紙フォトギャラリーはこちら
* * *
左官の技術とジャパンブルーとも呼ばれる藍。伝統と伝統を掛け合わせ、新しいアートを生み出した。しっくいを塗り重ねたキャンバスに表現された藍の世界は躍動感にあふれ、生命の鼓動を感じさせる。
乾いていない状態のキャンバスに藍を垂らしたり、竹の筒で息を吹きかけたりと、表現の方法は独特だ。赤いレンズをかけて制作してみることもあるという。「万物はつながっているという世界観を大切にしています」
藍はなぜ染め物だけにしか使われていないのか──。左官として腕を振るっていたある日、ふとそんな疑問がわいた。もともと好きだった藍をしっくいにも浮かび上がらせたいと、アートへの挑戦が始まった。
ただ、日本古来のしっくいだと、藍を混ぜて塗るだけではうまく染まらない。そこで注目したのがヨーロッパのしっくいだった。配合されている成分が異なるため、藍を顔料にして表面に定着させれば発色が可能だと考えた。藍は紫外線に弱いため、色あせや劣化が起きないように配合を工夫し、アートに応用できる技術に進化させた。
左官の技術を学び始めたのは35歳の時。21歳で設立した建築のデザイン施工会社の経営は順調だったが、ヨーロッパの左官技術に魅了され、すべてをやめて職人の世界に飛び込んだ。
「完全に畑違いでしたが、圧倒的なかっこよさに心が突き動かされました」
独学だったが、技術を高めるためにひたすらしっくいを塗った。こてとしっくいを手に知り合いの家を回り、「ただでいいので塗らせてほしい」と頼み込んだ。ひたむきに打ちこむなかで、創作の世界に導いてくれたのが藍だった。
常識にとらわれない作風は多くの人の目に留まり、有名ブランドの店舗デザインなどにも起用されている。今年5月には伊勢丹新宿店で初の個展が開催された。
「固定観念にとらわれることなく、技術におごることなく、現代に生きる藍の表現者でありたいと思っています」
年々減少傾向にある藍の生産を守る活動にも力を入れる。地元の畑で自ら藍を育て、藍染めの染料やアートに使う藍に加工する。「現代のニーズに合わせた新しい消費の形を提示していきたいと考えています」
(ライター・浴野朝香)
※AERA 2024年8月26日号