この日のメインの相談内容は、胃ろう交換と短期入所のことでした。胃ろうとは、口から栄養を十分に取れない場合、手術で腹部に小さな穴を開け、チューブを使って直接胃に栄養を注入する方法です。待合室で2時間以上待ったあと診察室に入ると、ドクターは長女の顔を見ることもなく、この年齢の患者に慣れていないことや、現在長女が使っているタイプの胃ろうはこの病院では扱っていないことを話し、この病院での胃ろう交換はできないと言われました。

「胃ろう」の器具は何種類かあり、長女が使用している胃ろうは「胃ろうボタン」と呼ばれるタイプで、年齢に関係なく最もポピュラーなものですが、1~2カ月に1度、チューブの交換が必要です。それに対し、この病院で使用しているものは「バンパー」と呼ばれる胃内に固定するタイプで、半年間チューブを留置させることができますが、入れ替えに苦痛が伴います。マンパワーの問題もあり、高齢者領域で使用も仕方ないとされているようですが、苦痛よりも効率を優先させるのは小児科領域ではあまりない考え方です。そして、患者である長女に対してドクターから何の声かけもなかったことにも少しショックを受けました。でもこれはドクターに悪意があるわけではなく、小児科とは違い高齢者領域では当然のことなのだろうとも思いました。

 一方で、病院全体としてはは私が胃ろうボタンの継続を希望していることを理解してくださり、日常的に在宅診療を受けなくても短期入所に関しては検討を進めていくとのことで、今後も調整してもらえることになりました。長女は胃ろうの他に人工呼吸器や在宅酸素の管理も必要なため、「まとめて管理してくれるところの方が家族の負担が減る」とも言ってくれました。

地域での受け入れ先ゼロ

 人工呼吸器が必要な子どもの短期入所の受け入れ先は、私が住む地域ではゼロです。この病院が前向きに検討してくださることは、我が家だけではなくこの地域にとっても本当にありがたいことです。少しずつ、地域全体が長女のような医療的ケア児に慣れていけば受け入れ幅も変わっていくのだと思います。時間はかかっても地道に進めるしかないですね。

 小児科領域と成人科領域では、患者を取り巻く環境の認識に大きな違いがあります。お互いが「別世界」のように見ていることも特徴であり、支援が進まない要因のひとつのように思います。今回の私の入院は何とかなりましたが、来年度以降のことを考えるとかなり不安が残ります。切れ目のない支援が行き届くことを切に願っています。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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