阿部光瑠七段(右)に勝利した後、感想戦で対局を振り返る西山朋佳女流三冠=2024年7月4日、東京都渋谷区の将棋会館
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 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年7月29日号より。

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 1974年。将棋界では「女流棋士」の制度が創設された。以来、将棋を指す女性の人口は次第に増え、全体的なレベルも大きく向上していった。

 そうした中で、現在の女流棋界は福間香奈(旧姓里見、32歳)と西山朋佳(29歳)が「二強」と呼ばれる。女流八大タイトルのうち、福間は五冠、西山は三冠を占めている。

 男性、女性の区別のない「棋士」はまだ、女性の中からは生まれていない。しかし福間、西山の登場によって女性の棋士誕生もまた、夢ではない段階に至っている。

 両者はかつて、棋士の養成機関である奨励会に所属。棋士の資格を得る四段まであと一歩というところにまで進んだ。また両者は女流タイトル保持者として一般公式戦に参加し、男性の棋士と伍して戦ってきた。2022年、福間は規定の成績をあげ、棋士編入試験の受験資格を取得。新人四段5人との五番勝負では惜しくも敗退したが、女性の実力向上を社会に知らしめた。

 日本将棋連盟会長・羽生善治九段は2023年12月の記者会見において、福間、西山の実力を「四段とほぼ遜色ないぐらい」と評している。多くの関係者の認識もまた、羽生会長と同じであろう。

 2024年。女流棋界は50周年を迎えた。6月には盛大に記念パーティーが開催された。

 7月4日。西山は朝日杯一次予選で阿部光瑠七段に勝利。規定の成績に達し、棋士編入試験の受験資格を得た。同日、西山は少しほほえみながら、きっぱりと言った。

「受験をさせていただこうと思っています」

 西山の五番勝負はこれから始まる。初代女流名人・蛸島彰子女流六段(78歳)も西山に熱いエールを送る。

「試験は大変でしょうけれども、三段リーグでも次点を取ったぐらいだから、力は十分。がんばってほしいです」

(ライター・松本博文)

AERA 2024年7月29日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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