吉田ルートの富士スバルライン五合目は、山開きの初日から多くの登山者でにぎわった=2024年7月1日撮影

日没前の入山呼びかけ

 吉田ルートの登りにかかる標準的なコースタイムはおよそ6時間30分。弾丸登山者のほとんどは日没後に入山するが、これをできなくする。山小屋に宿泊予約があれば午後4時以降もゲートを通過できるが、各小屋は日没前の入山を呼び掛けており、「午後4時以降の通過はあくまで例外」(山梨県)という。また、4千人は山頂付近で人が密集して危険な状態になる目安で、昨年超えたのは5日間だった。

 同時に、事前に入山予約と通行料2千円(県条例に基づく義務で今年から導入)、保全協力金1千円(任意)の決済を行えるウェブサービスもスタートした。予約できるのは1日3千人までで、3千人に満たなかった人数+1千人が当日枠となる。11日現在、7月13日(土)と20日(土)は予約枠が埋まり、14日(日)と27日(土)も残りわずかとなっている。

「弾丸登山は減るし、混雑日は吉田ルートを避けて別のルートから入山するなど一定の分散効果もあると思います。一方、山頂で御来光を見たいと考える人が減らない限り、『週末の早朝、山頂付近が大混雑』という全体像は変わりません。例えば山小屋をたつ時間で通行料を変えるダイナミック・プライシングを導入するなど、より積極的な分散策を今後検討してほしいと思っています」(佐々木さん)

 また、通行予約システムには懸念もある。一度決済すると、県がゲートを封鎖した場合などを除きキャンセル・返金ができないのだ。登山は事前に計画しつつ、天候や体調に応じて柔軟に中止を決断すべきものだ。それは本来、事前に支払った2千円で左右されてはならない。ただ、佐々木さんはこう話す。

「富士山の観光地化が進み、登山者層も変わっていわゆる『登山の常識』は通用しなくなっています。『予約しているから』と無理をする登山者は必ず出てくる。無理をしないコンセンサスづくり、無理をさせない制度設計が必要です」

 新施策は成功するのか。この夏の富士山に注目したい。

(ライター・川口穣)

AERA 2024年7月22日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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