それでも、産休に入る日が近づいてくる。
少しずつ授業で使うプリントをつくりためて、同じ教科の担当教員に個別に引き継いでいった。周囲はみんな自分の授業や部活動に手いっぱいで、声をかけるのも気が引けた。実際、あからさまに嫌そうな顔をする人もいた。
「お願いします」とは言えず
ただ、どうしても引き継げないことがあった。定期テストの採点だ。産休に入る時期は、ちょうど学年末試験の直前だった。自分で試験問題をつくったのに、採点を人に任せなければならない。生徒数も多く、どんなに急いでも最低6時間はかかる大仕事だった。ほかに通知表の作成や、生徒の学習記録をまとめた指導要録の作成もあった。
引き継げば、他の教員の時間外労働をまるまる増やすことになってしまう。
「産休に入るからと言えば、嫌でも断ることはできない。だからこそ、テストの山を渡して『はいお願いします』とはどうしても言えなかった」
管理職は調整してくれなかった。女性の経験上、産休中に仕事する教員は少なくなかった。ほかに仕方がなく、自ら校長に言った。「私が採点してもいいですか」。校長は止めなかった。
産休開始後の平日昼、生徒に見られないように職員室に通った。体調を心配した高校教員の夫からは「行かなくていいんじゃない?」とやんわりと止められた。仕事を割り振るのは管理職の仕事で、任せてしまえばいい。それが夫の言い分だった。
それでも、責任感の強い性格もあって、やらずにはいられなかった。最終的には夫も「逆にもやもやするなら仕方ない」と理解を示した。採点と成績処理を無事にやりとげ、産休と育休に入った。
すると、なぜそこまでしなくてはならなかったのか、考えるようになった。管理職の対応に、大きな疑問がわいた。思わず、スマートフォンのメモ帳に言いたいことをつづった。
産休中に仕事しなくてもいいように「何か配慮をしたのか」