実弥が「鬼喰い」を許せない理由
不死川兄弟の母親は、とても優しい人物だった。実弥も玄弥も母のことが大好きだった。しかし、この母は鬼に襲われ、鬼にさせられたことで理性を失い、まるで獣のように実子を襲ったのだった。――どんな善良な人間でも、鬼化すればそれは「人」では無くなる。実弥にはその思いが強い。
「人間ならば生かしておいてもいいが 鬼は駄目です 承知できない」「証明しますよ 俺が 鬼という物の醜さを!!」(不死川実弥/6巻・第46話)
実弥は初めて禰豆子と会った時に、誰よりもかたくなに、鬼化した人間の脅威を主張した。弟妹を守るために、実母に手をかけて殺した過去を持つ、不死川実弥の悲痛な言葉だった。
急激に成長した玄弥の身体。鬼を滅殺するために必要な「呼吸」という技すら使えないはずの玄弥の、近頃の目覚ましい活躍に、実弥は一瞬で弟の「鬼化」の状態を把握した。そして、「あの日」の母の姿を思い出してしまうのだった。
「異例の能力者」不死川玄弥
しかし、実弥の懸念をよそに、玄弥には彼にしかない「才覚」があった。通常、鬼の血液が体内に入ると、その血液は毒のようにその人物をむしばむか、理性を失わせ凶暴化させる「鬼化現象」を引き起こす。意識の一部は混濁し、人間時代の思い出も、優しさも損なわれる。しかし、玄弥は“ちがう”。みずからが「鬼化」の段階をコントロールし、禰豆子と同様に、人間としての優しさを失うことなくいられる。つまり、「特別な鬼」なのだ。
玄弥は屍肉のような独特の匂いがする鬼を喰い、飲み込み、それを自分の血肉へと変え、血鬼術すら使いこなすことができる。すさまじい精神力である。鬼のパワーを身に宿しながらも、それと同時に人としての意識を保ち、「鬼殺隊として」戦うことができる。これは玄弥にしかない唯一無二の才能で、鬼との総力戦が近づいている今の鬼殺隊に、必要な力でもあった。