ただプログレのバンドには、違う形で特徴的な“終活”もある。東京・目白のプログレ専門店「WORLD DISQUE」店長、中島俊也さんはこう話す。
「バンドを引っ張ったカリスマ的なリーダーが亡くなった後も、彼らと最後に活動していた若いメンバーがそのイズムを受け継いで、オリジナルメンバーが一人もいなくてもその名前を継続させるという形ですね。フランスの『ゴング』やドイツの『タンジェリン・ドリーム』といったバンドが好例です。亡くなっていくミュージシャンが多い中で、これからのバンドの残り方としての一つの形なのかなと思います」
マニアも終活
「WORLD DISQUE」では、CDやレコードの販売とともに、中古盤の買い取りも行っている。それだけに、中島さんには最近気になる現象があるという。それはプログレ・マニア、レコード・コレクターの“終活”だ。
「ひと昔前は、大量に買い取り品が持ち込まれるのは引っ越しとか結婚という機会が多かったんですが、最近は『墓までは持っていけないので』という買い取りの問い合わせが来たりもします。70年代のプログレ黄金時代を生で味わった世代が高齢化しているのは確かで、アーティストだけでなく、彼らの音楽を享受してきたリスナー、コレクターも、“その時”を考えなければいけない時代になってきたということなんでしょうね」
ロックの誕生から長い年月が経過し、そのオリジネイターたちが次々とこの世を去っていく。確かにこうした事態がやってくるのは当然のことなのだが、これまで想定していなかった(というよりも、目を背けていた)だけに、どう対応していいのかわからないというのもまた事実。どのアーティストやバンドもいつ、どんな形で終わるかわからない。われわれにできることは、せめて見られるときに、その一挙手一投足を目に焼き付けておくこと。そして彼らの素晴らしさを語り継いでいくこと。それしかないのである。(ライター・高崎計三)
※AERA 2024年5月20日号より抜粋