両親の看取りをつづり、ホームドラマを見るように一喜一憂させられるノンフィクションだ。
大阪市内のマンションに父と二人で住む母が、台所で火傷を負い、救急搬送される。著者が駆け付けたところ、命に別条はなかったが、しばらくして容体が急変する。米国に住む兄に危篤と報せても、「グリーンカードが取れる直前」のために帰国できないとの返答に苛立ちながら、母の臨終までのあわただしい日々がつづられる。「70万円と50万円と無料」の3ランクを提示されての「戒名」選びなど、弔いにまつわる出来事が親族、家族、周囲の人たちの会話とともに再現されていく。その後も認知症の父親の老人ホーム探しに追われ、その父も……。
著者はこのときの体験を踏まえ、後に『葬送の仕事師たち』という出色のルポを上梓したが、本書の文体はルポのように硬質でなく軽妙で、生き生きとしている。病室を出ていく際に「なぜ母の顔をしっかり見なかったのか」。著者が何度も反芻する後悔の深さが胸に迫ってくる。
※週刊朝日 2015年12月11日号