漁業権が設定された区域でアサリなどを獲る人々=船橋市、米倉昭仁撮影

 首都圏で密漁の被害が特に多いのは千葉県。東京駅から電車で約30分、都心から一番近い潮干狩り場を開設する「ふなばし三番瀬海浜公園」の周辺の海でも、密漁は行われている。

「三番瀬」は東京湾の最奥にある干潟で、江戸時代からノリや貝の獲れる良好な漁場として知られてきた。潮干狩り場の周辺には船橋市漁業協同組合の漁業権が設定されており、組合員以外がアサリやホンビノスガイ、ハマグリなどを獲ることを禁止している。

 だが、密漁者は後を絶たない。

「ふなばし三番瀬海浜公園」では漁業権エリアで獲ってはいけない貝が写真入りで表示され、日本語、英語、中国語、韓国語で記されている=船橋市、米倉昭仁撮影

警告を無視して貝を獲る人々

 4月中旬、ふなばし三番瀬海浜公園を訪れた。

 公園のあちこちに密漁禁止を呼びかける看板が目についた。採取禁止の貝を写真付きで表示し、日本語だけでなく、英語や中国語、韓国語の表記もある。

 天気が良く、潮干狩り場は大勢の人でにぎわっていた。そのすぐ外側は漁業権漁場のエリアで、境界には木杭がずらりと打ち込まれている。杭には「これより先は漁業権の設定があり、アサリ、バカガイ、カキ、ホンビノスガイなどを獲ることはできません」という内容が書かれた標識が取り付けられている。

 ところが、潮が引くにつれて、潮干狩りに来た人が木杭の境界線をどんどん越えていく。標識に目を向ける人はほとんどいない。

 波打ち際へ駆けていく子どもたちを追って漁業権エリアに足を踏み入れる保護者たち。おしゃれな服装の若い女性たち。工事用のスコップを持った家族が目についたくらいで、多くはごく普通の潮干狩り客に見える。

「ここでアサリなどを獲ってはいけないことを知っていますか」と、20人ほどに声をかけた。約半数は外国人だったが、「(日本語が)わからない」という人を除いて、「そうなんですか、全然知りませんでした」と、ちょっと驚いたように答えた。態度に深刻さはまるで感じられなかった。獲った貝を海に戻して漁業権エリアの外に出る人もいたが、そのまま潮干狩りを続ける人も少なくなかった。

 記者が目撃した、“レジャー密漁”の現場だった。

工事などで使われる大きなスコップを手に漁業権が設定された区域に入る人々=船橋市、米倉昭仁撮影
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謝罪をしても遅い