すぎむら・たつや/1986年12月29日生まれ。37歳。千葉県千葉市出身。2014年弁護士登録。本八幡朝陽法律事務所所属。コンピュータ将棋ソフト「水匠」開発者。趣味はキャンプ(撮影/高野楓菜)

「いえ、全然不幸になっていないと、私は思っています。将棋はAIで研究し、作戦を練って、人間同士が戦える、素晴らしい分野だと思います。AIは相当精度が高いんですけど、その精度にほど近い人間も生まれている。ゲームではどれだけ速くクリアできるかという、リアルタイムアタック(RTA)という分野があります。『スーパーマリオ』で、人間はコンピュータが全部動かすマリオには勝てない。それでもいまや、コンピュータと人間のトップクラスは、1、2秒の差しかないんです。精度の高いAIの存在によって、人間の能力はそこに近いところまで極まるし、人間のすごさもわかります」

 かつては「コンピュータが強くなると、棋士の存在価値がなくなるのではないか」という声もあった。しかし現在も変わらず将棋のプロ制度は存続し、優れた技量を有する棋士は社会的にも尊敬され続けている。司法の分野はどうなるのだろうか。

「もし弁護士AIがきわめて優秀になれば、最終的にはもしかしたら、人間の弁護士が不要になってもおかしくないとは思います。仮にいずれ『人間の弁護士はもう、いらなくなりました』と言われるのであれば、進歩の結果ですから、それはそれでいいんです(笑)。また違う仕事も生まれるでしょうから。ただしそれは最終形態ですね。弁護士AIがどんどん優秀になっていく過渡期では、明らかに人間のプロである弁護士が、そのAIを使って一番役に立てることができる。それで仕事がうまくいくのであれば、もちろん大歓迎です。現在、将棋AIを一番うまく使いこなせているのが、プロ棋士であることと同じだと思います」

(構成/ライター・松本博文)

AERA 2024年4月22日号

著者プロフィールを見る
松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の記事一覧はこちら