作家・司馬遼太郎さんをしのんで開かれる「菜の花忌シンポジウム」。今年は『街道をゆく』をテーマに、大紀行が未来に伝えるメッセージを語り合った。AERA 2024年3月18日号より。
* * *
『竜馬がゆく』『坂の上の雲』などの歴史小説で知られる作家の司馬遼太郎さん(1923~96)をしのぶ「菜の花忌シンポジウム」が、命日の2月12日、都内で開かれた。今回のテーマは「『街道をゆく』──過去から未来へ」。「週刊朝日」で71年に始まった連載「街道をゆく」は司馬さんが亡くなる96年まで25年にわたり続き、国内は北海道から沖縄まで、そしてアイルランド、オランダ、モンゴル、台湾などの海外にも及んだ。
司会・古屋和雄:まず『街道をゆく』が皆さんにとってどういう作品か、教えてください。
今村翔吾:僕が『街道をゆく』を全部続けて読んだのはたぶん中学2、3年生頃。司馬さんの小説を全部読み切って、読むものがなくなって……といったら失礼ですけど。読んでみて、小説にフィードバックされているところが随所に感じられて、「二度楽しめる」感じだったのを覚えていますね。
憧れだったモンゴルへ
岸本葉子:なんといっても足での探索と、頭での探索。実際に司馬さんと一緒に歩いて、移動をしている感じも楽しめる。または、あまり移動はしていないけれども、思索があちらこちらに飛んでいく。それを自由に行ったり来たりするところが魅力だと思います。
磯田道史:司馬さんは、取材して持っていたイメージが足元から崩れるのが快感だ、と言っています。その差分を大事にしながら歩いていったのがいい。
古屋:たくさんある『街道』のなかで、何がお好きですか。
岸本:一つ挙げるならば、「モンゴル紀行」(第5巻)です。司馬さんは少年のころからモンゴルに憧れを抱いて、大学でもモンゴル語を学びました。そして、1973年に初めてモンゴルを訪ねます。憧れの地にようやく行ける心の弾みが文章から伝わってきます。片言でモンゴル人同士のけんかの仲裁を買ったり、ほかではみられない司馬さんの様子に接することができます。
モンゴルに限らず、司馬さんの訪ねた所は、「南蛮のみち」(第22・23巻)にしろ「愛蘭土紀行」(第30・31巻)にしろ、少し“周辺”なのが印象的です。