ナワリヌイ氏の棺と肖像画を運ぶ作業員たち=2024年3月1日、ロシア・モスクワ(AP/アフロ)
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 ロシアの反政権派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が獄中で死亡した。暗殺との推測も多く、真相は闇の中だ。今後のロシア情勢にどういう影響が出るのか。AERA 2024年3月18日号より。

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 夫が、未来の美しいロシアを見ることはありません。ただ、私は彼の夢をかなえるために全力を尽くします。悪は滅び、美しい未来が来ます──。

 2月28日、フランス・ストラスブールの欧州議会に万雷の拍手で迎えられたユリア・ナワルナヤ氏は、演説でこう宣言した。彼女の夫で、ロシアの著名な反政府活動家だったアレクセイ・ナワリヌイ氏が2月16日に亡くなったことを受けての演説だった。

 朝日新聞などによるとナワリヌイ氏は2020年、プーチン政権の関与が疑われる毒殺未遂事件で一時重体となりドイツで治療を受けたのち、21年1月に帰国。過去の詐欺事件による執行猶予の条件を破ったとして逮捕され、ロシア北極圏にある刑務所に収監されていた。その経緯から、再び暗殺の魔の手が伸びたとの推察も多くある。

 支援団体の幹部はYouTubeに投稿した動画で、ドイツで服役中のロシア元工作員とナワリヌイ氏を交換する交渉が最終段階に達していたが、プーチン大統領が釈放を容認できなかったために殺害されたと主張している。一方、ウクライナメディアによると、ウクライナ国防省の情報部門トップは同国記者団の取材に対し、「血栓が原因」と述べて暗殺との見方を否定したという。

 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの服部倫卓教授はナワリヌイ氏の死についてこう語る。

「ナワリヌイ氏は隔絶された刑務所で当局のコントロール下に置かれていて、ロシア社会を動かすほどの影響力を発揮するのは難しい状況でした。むしろ、殺害すれば国内的にも国際的にも緊張を生む可能性が大きく、あえて直接手を下して殺害する合理性はありません。一方、政敵は徹底的につぶすプーチン政権の姿勢を考えると見せしめ的に殺害したとも考えられ、真相は不明です。ただし、北極圏の刑務所で過酷な環境に置かれていて、広い意味でプーチン体制によって殺害されたというのは間違いないでしょう」

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