イラスト:サヲリブラウン

 落とし物を見つけたら然るべき場所に届ける。これはコミュニティー全体の利益と安全を守るルールです。放置したり、盗んだりするのは恥ずかしいという共通認識もあるでしょう。「落とした人がどうなっても私には関係がない」とは思わないということです。

 友人は、この感覚がアメリカでは感じられないそう。と同時に、日本に帰ると、コミュニティーのルールから外れた服装や振る舞いをしていないか、他人に観察されているような息苦しさも感じると。

 なるほど、確かに治安維持と相互監視が無縁とは言い難い。他者の自由の尊重と「他人が困っていようがルールを破っていようが自分には関係がない」という態度も無縁とは言えない。極端に言えば連帯責任か個人主義かで、人がやさしいとか冷たいとか、そういうことではないのだろう。

 他者の選択に対し健康的に無関心でいながら、困りごとには手を差し伸べる社会が理想。しかし、人は自分が損をしないほうを選びがち。長期的に見れば自分にとっても得な理念ながら、健康的な無関心の維持と互助を結ぶ、説得力のある考えをはっきり提示しないと、実現は難しそう。

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

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