無縁ではない?治安維持と相互監視(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 先日、映画「落下の解剖学」を観たあとのこと。映画館を出ると、目の前はデパート。時計を見ると、閉店30分前。私はニヤリと館内に駆け込みました。値引きされたデパ地下総菜狙いです。

 予感は大当たり。そこはパラダイスでした。ありとあらゆる総菜が親しみやすい価格で私を待っていました。

 興奮した私は、一人暮らしにもかかわらず、すべての店を血眼で回り欲しい総菜を片っ端からゲット。なんという達成感と全能感。両手に袋を抱え、最後に訪れたおむすび屋さんで会計を済ませようとすると……あら、財布がない。

 焦りました。現金、キャッシュカード、保険証、クレジットカード、マイナンバーカード、すべて入っていたから。

 必死の思いで遺失物預かり所に行くと……あったんです! 中華総菜屋さんの前に落ちていたのを、どなたかが拾って届けてくれたそうで、中身はすべて残っていました。

 ……という話をアメリカ在住の友人に話したところ、「さすがジャパン」と感動されました。曰く、アメリカでこの展開は想像しがたいとのこと。そこからしばらく日本について話をつづけました。治安が良い、では片づけられない理由があるという話です。

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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