ブラジルでイグアスの滝を見学する「浩宮さま」(現・天皇陛下)。シャツのボタンを外してややラフな雰囲気=1982年10月、ブラジル

 70年代末から80年代初めにかけては、シルベスター・スタローンやハリソン・フォード、アーノルド・シュワルツェネッガー、ジャッキー・チェンなど、たくましい肉体に太い眉毛ともみあげ、シャツから見える胸毛など「男らしい」ハリウッドスターが人気だった。

「一方で、陛下も伸ばしていらっしゃったもみあげは、若さの象徴として捉えられた面もありました」(石原さん)

 米国の高校でもみあげを伸ばして卒業式に出席する生徒を、大人に反抗する若者としてマスコミが取り上げたこともあったからだ。
 

ディスコで入場を「断られた」訳

 20代前半の「浩宮さま」時代のエピソードには、若者らしい遊びやファッションにまつわるものもあり、年相応の素顔が浮かび上がってくる。

 たとえば、翌83年からの英オックスフォード大学留学中の思い出をつづった『テムズとともに』(徳仁親王著)には、週末にディスコに繰り出したものの、ドレスコードで「失敗」したエピソードが登場する。
 

「ここでも傑作な経験をした。土曜日の晩と記憶しているが、私はいかにもディスコが好きそうなMCR(※編集部注:ミドル・コモン・ルームの略)のある男性と一緒にとあるディスコに入ろうとして、入口で差し止められてしまった。理由を聞くと、ティーシャツやジーンズではその晩は入れない由である。ちなみに私がジーンズ、友達がティーシャツ姿であった。さらにその人は私たちの後方にいた警護官を指差し、『あなたは結構です』と言った。彼はネクタイこそしめていなかったが、ブレザー姿であったから許可されたのであろう。オックスフォード滞在中は、可能な限り他の学生と同じでありたいというのが私の本心であり、自分が誰かを名乗るなどとんでもない話である。素直にそのままあきらめて帰った。オックスフォードのディスコでも、週末にはある程度の服装を求められるという新しい知識を得ることができた」


 陛下は、『テムズとともに』の刊行に寄せて、こうしたエピソードを「貴重な青春の思い出」と振り返っている。南米訪問でみせたロングヘアや気概あふれるスーツ姿もまた、貴重な青春の記録であるにちがいない。

(AERA dot.編集部・永井貴子)