AERA 2023年4月3日号より
AERA 2023年4月3日号より

 僕は、BTSがこれほどのトップグループに成長した背景には、彼らが時代の空気を敏感にくみ取って、そこに合った活動をできたことが大きいと考えています。

 たとえば、13年当時、日本社会には閉塞感が漂い始めていましたし、一方ではSNSが普及しはじめ、人々が内に秘めた言葉をアウトプットすることが一般的になりつつあった時期でした。

■欧米でのインパクト

 BTSが世界に照準を合わせた17年当時、欧米のヒットチャートを長らく占めていたのは、恋愛とセックスについて語られるヒップホップ中心の楽曲でした。そんな中、「自分を愛そう」というBTSのメッセージのインパクトは大きく、多くの人の心に響いたはずです。彼らの楽曲は、ヒップホップでありながら、誰も傷つけません。ファンを本当に大切にする、メンバーの整ったパーソナリティーも説得力をもたらしたと思います。

 SNSでの発信が大きな力を持つようになったこと、Black Lives Matterなどを通じてマイノリティーに対する世界の目が変化していく最中にあったこと、K-POPが世界的な発信力を獲得していったこと、さまざまな時代の節目に、BTSがいた。彼らが挑戦し、やりとげてきたことが、世界に受け入れられたということだと思います。

 欧米市場の壁は、アジアのアーティストにとって高いものです。「BTS」という通称に舵を切り、グループアカウントに情報を集中し、ファンが箱推しできる環境を作ったこと、パフォーマンス動画に加え、メンバーのパーソナルな部分を見られる動画コンテンツを多く発信したことも、奏功したと思います。

「American Music Awards」授賞式での「DNA」の圧倒的なパフォーマンスが話題になり、その後発表した英語曲「Dynamite」は、多くのラジオ放送局でかけられ、全米1位を獲得しました。

 BTSは欧米の流行をつかんでからも、自分たちがやりたかったことをやり、自分たちの価値を上げていった。これは、メンバーそれぞれが強い意志を持っているからだと思います。

 僕も本当に不思議なんですが、メンバーの信念、時代の動き、戦略、さまざまな要素が組み合わさって、いまのBTSがあるのだと思います。BTSが先を行き、そこに時代が追いついてきた面もありますよね。BTSが時代を読んだのか、時代がBTSを作ったのか、両方あると思いますが、BTSは、ある意味で世界を一つにしてきました。そういう意味では、ここまでのグループは今後、出てこないでしょう。

(構成/ライター・小松香里)

AERA 2023年4月3日号より抜粋