いよいよ即位を前にした時期。我々は、「いまのお気持ち」や、「目指す天皇像」についてお尋ねしたことがありました。陛下はいつもの落ち着いた表情でした。しかし、はっきりとこうおっしゃったのは、印象深く覚えています。
「覚悟はできています」
そして、こうも。
「幼い頃より、祖父である昭和天皇や父である陛下(上皇さま)のなさりようを目の前で学んできた。基本的には、自分も同様に国民と接していきたい。特に自分の足で現地に行き、自分の言葉でじかに、人びとと話をすることを大事にしたい」
これは、昔から一貫しておっしゃっていました。ですので、コロナ禍によって公務が中止になり、リモートによる公務が中心になった時期は、忸怩たる思いでいらしたことでしょう。
令和の天皇としての陛下の原動力になっているのは、まちがいなくご家族です。「私」よりも「公」を優先するのが当然だったのが、昭和と平成の皇室でした。そして、国民もそれを求めていました。
雅子さまと愛子さまという、家庭も公務も両方を大事にしようとされた。そして、時代とともに価値観も変わり、皇室に対して求めるものも変わりました。
父親が家庭を顧みずに仕事にまい進することが是とされた時代はとうに終わり、育児に参加する父親像は普通になりました。
陛下が実践してきた、家庭と公務のどちらも大切にするというあり方が国民と皇室で共有できるようになったのは、新しい変化でした。
一方で心配なのは、皇室に求める価値観の急激な変化です。
昭和の時代から、テレビや雑誌などが皇族の外見や服装に注目する現象はありました。しかし、皇室への敬意だけが失われ、芸能人と同一視する風潮には不安を感じます。
天皇陛下は63歳の誕生日を迎えました。昔であれば定年退職の年齢ですが、いまの時代、まだまだ働き盛りです。私たち同級生と語り合い、議論した「令和の天皇像」をどう実現なさるのか、期待をしております。
(聞き手/AERA dot.編集部・永井貴子)