樺太アイヌの「クマつなぎ杭」の再現の展示。クマの霊送り儀式の際に使われた子グマをつないでおく杭で、高さが約6メートルある=北海道白老町・国立アイヌ民族博物館(写真:アイヌ民族文化財団提供)

「アイヌ文化についての講座で軽妙なレクチャーで活躍している人が、実は自分の家族には『自分がアイヌだ』とは言えていない。そんな現実もあるんです。講座でアイヌ文化について楽しく学んだつもりの人も、そんな裏の実態については想像もできないでしょう」

「もやもや」を考える

 アイヌであることで、明らかに居心地の悪さがある。でも、それが「差別」かと言われたら、それも違う気がする……。北原さんはそんな「もやもや」の実態を考えるための材料を提供しようと、『アイヌもやもや』(漫画家の田房永子さんとの共著)を昨年12月に上梓した。

 アイヌという存在をどうとらえるか。そもそも「民族」とは何か。いまを生きるアイヌが何を思い、何に苦しんでいるのか。田房さんの漫画も交えてわかりやすく解説している。

「『差別』という言葉にうまく反応できないアイヌも多いんです。差別とも言い切れない、とらえどころのない苦しさ。アイヌの中にあるそんな『もやもや』は出せばプライバシーに触れるのでなかなか表には出ず、アイヌではない人へも広がることになる。だからこそ、漫画や映画という、架空の存在だけれども顔と名前があるキャラクターを通じ、そこに同化していきながら体験することも大事かもしれません。作品で描かれるキャラクターは有限ですが、『他にももっといろんなアイヌがいるはずだ』という方向へ関心がつながっていけばいいなと思います」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2024年2月12日号

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