ウポポイにはレストランやカフェもあり、アイヌ民族の伝統料理や創作料理を提供している。「カフェ リムセ」のチェプオハウ(魚の汁物)セット(写真:アイヌ民族文化財団提供)

「アイヌの存在を知っている人からは、『あ、犬(アイヌ)』が典型的な侮蔑語です。バスの中で女子高生が私を見て『犬が座ってる〜』と歌いながら離れていったこともあります。すれ違った後に『アイヌ〜』と、もし指摘されても言い逃れができる形で声をかけてくることも。またアイヌを知らない人からは『アイヌなんていまはもう存在しない』と断言されたり。そんな形での差別も存在します」

ウポポイ内にある国立アイヌ民族博物館の展示風景。アイヌ民族の伝統的な衣服には、刺繍や継ぎ布等によって文様が施されている=北海道白老町・国立アイヌ民族博物館(写真:アイヌ民族文化財団提供)

当事者が細やかに発信

 2023年に内閣府が公表した「アイヌに対する理解度に関する世論調査」では「差別や偏見があると思う」と答えたのは21.3%で前回(16年)の調査よりも3.4ポイント増。「ないと思う」と答えた人は28.7%と前回の50.7%から大きく減ったものの、「あると思う」よりも多いという結果に。北原さんはこの調査で「わからない」と答えた人が49.7%と、前回の31.4%から大きく増えた点をとくに重視したいという。

「世間で想像するアイヌへの差別と、実際にいまを生きているアイヌが困っていることとの間にはギャップもあるんです。直接的な侮蔑も差別ですが、『そういうことばかりではない居心地の悪さ』について、この数年間、当事者や支援する市民団体が細やかに発信してきた。そのことで『差別がある』『ない』なんて簡単には言えない、と考える人が増えたのではと感じています」

 北原さんの言うギャップ、居心地の悪さとは何か。

 民族的にマイノリティーであるアイヌは、自分の属性を伏せている人も多い。アイヌ文化への注目が集まる中で工芸や舞踊などの分野でメディアに登場する人も増えたが、そういう人と自分との距離を感じ、自身のアイデンティティーに自信を持てず、「自分のことをアイヌと言ってもいいのだろうか」などと感じる人も多いのだと言う。

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