東京五輪の女子個人メドレーで二つの金メダルを獲得した大橋悠依(28)=イトマン東進=が五輪イヤーに入って調子を上げている。3月17日に開幕するパリ五輪代表選手選考会(同24日まで。東京アクアティクスセンター)に挑む。世界の頂点に立ってなお挑戦を続けるモチベーションはどこにあるのか。東京五輪を振り返ってもらった昨年のインタビューをお届けする。

【写真】東京五輪・競泳女子200メートル個人メドレー決勝で優勝し喜ぶ大橋さん

東京五輪・競泳女子200メートル個人メドレーで金メダルを獲得した大橋悠依=2021年7月28日、東京アクアティクスセンター
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――2021年の東京五輪を振り返って、どんな大会でしたか。


大橋悠依(以下、大橋) 大会前はあれだけの結果が出せるとは思っていませんでした。オリンピックの緊張感の中、どういうレースプランで勝つかを平井(伯昌)先生と考えて、2種目とも金メダルが取れた。自分の人生の中で、あれほどおもしろかった試合はありません。

――大会初日の400m個人メドレー予選は、直前の男子で優勝候補だった瀬戸大也選手がまさかの9位、8位までの決勝進出を逃しました。

大橋 サブプールのトレーナーベッドに座ってモニターで見ていました。9位とわかった瞬間、同じ種目の谷川亜華葉選手と抱き合って「怖いね」って話しました。平井先生がすぐ来てくれて「怖いです」と言ったら、「やることは変わらない。普通に泳げば決勝に残れる」と言われて。起きていないことに左右されちゃいけない、と自分に言い聞かせていました。
 それでも怖い。全然怖い(笑)。ただ、大会直前の高地合宿のときの状態が悪過ぎたので、予選を泳ぐ前は本当に自分の状態が良くなっているかわからなくて、「決めたとおりに泳ぐ。決勝に残ったら勝ち」と思っていました。大会前に調子が悪かったのはラッキーでした。もし状態が良くて、金メダルを意識していたら、もっと緊張していたと思います。

――予選は4分35秒71。2組目1位、全体3位で決勝に進みました。

大橋 予選の平井先生の指示は「最初のバタフライは普通に入って、背泳ぎ、平泳ぎは大事に行く。最後の自由形は余力を残してもいい」ということでした。「夜の予選は体が動く。テンションも上がってペースを上げたくなるけど、翌朝の決勝に備えて抑えて終わっていい」という話でした。バタフライからいい感じで泳げて、平泳ぎまで2位と差があったので、自由形は結構ゆっくり泳ぎました。タイムを見て「これで35秒台が出るのか」と自信になりました。

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「敵はワイアントのみ」