
好きなものを見つけるのが得意な加古さんに、好きなものが見つからない大人へのアドバイスをもらうと、「自分のものに限らず、とにかくライブはおすすめ」と言ってニッコリとほほ笑んだ。
「ライブで受けるエネルギーほど、圧倒的なものは他にないと思います。僕自身も、コンサートのときは、『次はないかもしれない』ぐらい強い気持ちでピアノを弾きますし、音楽がいちばん純粋な形で生まれている瞬間がライブだと思うから。同じ時間、同じ空間に集まって、繰り返すことのできない、消しゴムも使えないかけがえのない時間を、みんなで共有する。ライブを体験した人は『レコードよりすごい迫力だ』とおっしゃいますが、そこで生まれている時間の迫力に勝るものはないんだと思います。まぁ、僕はレコードもたくさん作っていますし、『ライブが最高』とまでは断言できませんが(笑)」
そんな加古さんが、4月からデビュー50周年のアニバーサリーコンサートで全国を回る。
「今回はソロとカルテットです。1973年にパリでデビューしてから今に至るまでの50年間の音楽の変化を一望できるようなコンサートになると思います」
パリで始まったフリージャズの時代の音楽に始まり、帰国して始めたピアノソロの演奏で第一部は構成される。第二部では、結成13年になる「加古隆クァルテット」の手によって、代表曲である「パリは燃えているか」も演奏される。
「NHKの『映像の世紀』のテーマ曲を依頼されたとき、『これは教養番組ではなく、歴史を楽しむエンターテインメントです。それにふさわしいスケール感のある曲をお願いします』と言われました。『歴史に興味を持ってない人も映画を見るように引き込まれていくドキュメンタリーで、そこに使われているのが真実の映像であることも番組の魅力です』と」
「パリは燃えているか」は、昨春スタートした「映像の世紀バタフライエフェクト」にも引き継がれた。このアニバーサリーツアーで綴られるのは、加古さんのベストセレクションによる「加古隆の世紀」である。

(菊地陽子 構成/長沢明)
※記事の前編を読む>>「ピアニスト・加古隆が50歳過ぎで気付いた『日本人は財産』の四つの理由」はコチラ
※週刊朝日 2023年4月7日号より抜粋