八田進二(はった・しんじ)/青山学院大学名誉教授。企業統治(ガバナンス)に詳しく、新会社は「表札を変えただけ」と評する

 旧ジャニーズ事務所が設立するエージェント会社の社名が決まったが、未だ改革を妨げる三つの壁がある。八田進二・青山学院大学名誉教授に聞く。AERA 2023年12月25日号より。

【写真】14万156件の応募があった...新社名がこちら

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 今のままでは「STARTO ENTERTAINMENT」(スタートエンターテイメント)に、真の改革は困難です。期待感もありません。理由は三つ。

 まず、透明性のない形で始めようとしていること。新会社の公式ホームページには、株主構成の中身もなければ、役員の名前が列挙されているだけで、兼職の多い取締役など、どのようなプロセスで選任されたのか、全く説明がありません。新会社は公開会社ではないので、適時開示の義務はありませんが、これだけ社会の耳目を集めた会社は、スタートの段階で正当な手続きが踏まれているかどうか社会に示さなければいけません。

新社名には14万156件の応募があった。社名には「STAR(スター)+と(未来へ向かう)」という意味がこめられているという

 次は、従業員の問題です。新会社の従業員は、旧ジャニーズ事務所の人が横滑りしてくるでしょう。そうなると、社内で性加害が起きているのを知っていて見て見ぬふりをする、旧態依然とした会社の風土が残ったままです。

 3点目は、これが最も大きな問題ですが、いまSMILE-UP.の傘下にあり、音楽やグッズ、肖像権などを扱う13の関連会社の取り扱いです。これらの会社は莫大な収益を生んでいますが、ほとんど藤島ジュリー景子氏が社長です。ここにメスを入れ新会社に引き継ぎ、ジュリー氏の影響力をなくすことができるかが、新会社の成否を握っています。

 新社長の福田淳氏は改革の旗手として知られているようですが、外部からきて一人で改革するのは無理。謙虚な姿勢で、適時・適切に情報を開示し、会社を取り巻く関係者から有益な提言や助言を求めることも一法です。そうして、少しでも支援してくれる人を増やすことが重要です。

(構成/編集部・野村昌二)

AERA 2023年12月25日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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