奥山佳恵さん(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

新型出生前診断への「疑問」

 奥山さんが美良生くんを出産した当時は、NIPTはまだなかった。しかし、一般検査の中で羊水検査や超音波(エコー)検査をする機会はあったという。その中で奥山さんは受けようとは思わなかったのだろうか。

「迷いましたけど、受けませんでした。そもそも私たちの間に障害がある子どもが生まれてくるとは想像もしていませんでしたし、胎児の様子が詳細にわかる4D写真を検討したところ検査に4千円かかることがわかりました。食い意地が張った私は、4千円あれば、近所のスシローで家族3人たらふく食べられるじゃないかと思ったんです(笑)。『4Dか、スシローか』と悩んだ末、私たちはスシローを選びました。でも今はその選択をしていて良かったと思っています」

 仮に美良生くんの出産の際にNIPTを受けて、陽性の判定がくだされた場合、どのような選択をしていたのだろうか。

「そのような状況に置かれたら、私は、“さよなら”をしていたと思います。上の子の子育てをこじらせた経験があるので、定型発達の子どもでも大変だったのに、障害がある子どもが生まれる可能性が高いと言われるわけですから。私にはとても育てられないって考えたはずです」

 奥山さんはNIPTについて、検査が本当に家族のためになっているのか、と感じているという。

「NIPTの存在そのものが、果たして本当に誰かを幸せにするための検査なのかなって疑問に思っています。初めこそ不安だらけだったとはいえ、いま次男がいない生活なんて考えられません。それは生まれて、一緒に日々過ごすことでしかわからなかったことです。なので、言葉は悪いですが、(出産前に障害が)バレなくて良かったと思ってるのも事実です。この検査の本来の目的は、どのような特徴を持った子が生まれてくるかを事前に知ることで、親が備えることができるようにするためだと思うんです。でも、現状、この子は大丈夫という保険が欲しいというような本来の目的と違った形で使われてしまっている気がします。だから、事前におなかの子の様子を医療や技術で明らかにすることに力を注ぐよりも、どんな子が生まれてきても大丈夫、と親が思えるように、生まれた後のケアを手厚くする体制を充実させてほしいと思っています」

(AERA dot. 編集部・唐澤俊介)

※【後編】<奥山佳恵さんがダウン症児を育てながら発信する「生きてるだけで100点」という言葉の真意>に続く

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唐澤俊介

唐澤俊介

1994年、群馬県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。朝日新聞盛岡総局、「週刊朝日」を経て、「AERAdot.」編集部に。二児の父。仕事に育児にとせわしく過ごしています。政治、経済、IT(AIなど)、スポーツ、芸能など、雑多に取材しています。写真は妻が作ってくれたゴリラストラップ。

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