元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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お国が物価高対策で減税を施して下さるそうだが、そもそも物価高の影響を受けていないのでモゾモゾする。何しろ滅多なことではモノを買わない。使いもしないモノや、そもそも使わずとも何の問題もないモノを買えば、負のオーラを溜め無駄なゴミを増やすだけと気づいたが故である(そんな当たり前のことに気づくのに半世紀もかかってしまった!)。
ってことでずっと買いたくとも買えなかったのが納豆。だって近所で普通に売ってる納豆はタレとカラシがもれなくセット。味の濃いタレが苦手な身では小袋ごと捨てるしかなく、そのストレスが納豆を食べたい気持ちを上回った。
それが最近、近所のミニスーパーに「タレ、カラシはついておりません」と書かれた納豆が! しかも3パック50円台と超激安。で、ようやく納豆が買えるように。とはいえ今度はプラ容器がゴミになることが気になってしまい、たまのご馳走という位置付けではありますが。
にしても驚いたのはその価格。同じ店で「普通の」納豆が90円台ですから、単純計算だと4割くらいがタレ・カラシ代だったんかーい! ちなみに周囲の人に聞くと「タレは使わない派」は決して少なくなく、それほどのコストをかけて作られたものが相当数ゴミ箱行きになっていたと思うと「タレ塚」でも作って供養すべきかと思われる。もちろんタレ好きのためにタレあり製品があっていいんだが、長年にわたりタレなし派=ゴミを増やす人になっていたのは、どう考えても不合理であった。
ちなみにここへきてタレなし製品が登場したのは、物価高で「○○なし」の割安製品が人気なためらしい。物価高はある意味店も客も無駄を見直す良い契機でもあったんですね。
だが、今度は納豆そのもののあまりの安さが気になっている。東北の震災の時、縁あってボランティアで大豆の収穫を手伝った。その重労働を思い出すと1パック10円台ってあんまりだ。モノの値段について改めて考え込む。
※AERA 2023年12月11日号